研究課題/領域番号 |
16K13552
|
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
白松 賢 愛媛大学, 教育学研究科, 教授 (10299331)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 教師 / ライフヒストリー / 非直線型キャリア / インタビュー / ドキュメント |
研究実績の概要 |
本年度は三つの研究内容を遂行した。第一は、非直線型キャリアの定義とライフヒストリー研究の分析枠組みの確立である。イギリス・カナダにおける教師のライフヒストリー研究やアメリカの教職キャリアパスの研究、質的調査研究資料を収集し、分析することで、非直線型キャリアの定義と研究対象としての意義を探求し、その成果を日本教育社会学会第68回大会で報告した。とりわけ、教師の「発達の普遍的段階論」の課題を指摘する上で、ドミナントストーリーの異化作用としての研究の意義を明確にした。またインタビュー調査の進展の中で、ライフヒストリーの多様性を担保した学校経営という管理職の仕事のあり方が、ライフヒストリー研究の臨床的可能性(有益性や有用性)を拓きうることを検討した。第二は、非直線型キャリア経験を有するインフォーマントへのインタビュー・分析である。これまでに蓄積している教師のライフヒストリーインタビュー、ドキュメントデータに加え、一般企業から教職への転入者や海外日本人学校の経験を有する研究協力者のインタビューを行った。インタビューのトランスクリプト分析の成果の一部は、HICE2017のカンファレンスや先述した日本教育社会学会で報告を行った。またドキュメントデータ(教育実習生のログ:学習や経験の記録を用いたライフヒストリー分析の可能性)は、JUSTEC2016のパネルディスカッションにて報告した。いずれも、教師の発達が非直線型に進むため、リフレクションを増やしても、学生や他の業種にいる段階では教師としての変化の自覚が持てないことや、教師としての経験の進展に従って、「過去の学習や経験」を肯定的に語る語りが増加することを明らかにした。第三は、大学入学時の学生を対象とした教師キャリアパスイメージに関する自由記述調査を行い、予備分析を行った(150名程度)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初研究を予定していた非直線型キャリアの定義とライフヒストリー研究の分析枠組みの確立と非直線型キャリア経験を有するインフォーマントへのインタビュー・分析は順調に進んでいる。この二つに関しては、国内学会で1件、国際学会(2件:うち一件はパネルディスカッションへの登壇依頼に基づく招待報告)を行った。とりわけ、教師の「発達の普遍的段階論」の課題を明らかにする上で、教師のライフヒストリー研究は、極めて有効であるという調査方法上の成果を明らかにした。また、教師一人一人のライフヒストリーを尊重した学校経営のあり方が、教師の仕事の満足度と大きく関わっていることがインタビュー過程で明らかになった。このことから、学校経営研究におけるライフヒストリー研究の可能性が拓かれつつあることは、研究に着手した際の予想を超えた成果となっている。このことは、臨床的教育社会学というよりも応用教育社会学と捉えることが、その可能性を高めるという新たな仮説を産出しており、順調に研究が進んでいる。第三の計画内容であった大学入学時の学生を対象とした教師キャリアパスイメージに関する自由記述調査については予備分析を行っているが、調査段階の学習状況に大きく影響を受けている可能性が明らかになった。そこで、調査の適切な時期の見直しや再度テキストマイニングによる分析を実施することを検討する必要が生じている。
|
今後の研究の推進方策 |
研究は順調に進展しており、教師のライフヒストリーに関する質的調査については、このまま年度計画通りに進行する。非直線型キャリアの定義とライフヒストリー研究の分析枠組みの精緻化に関しては、教職研究として、少数のインフォーマントを対象とするライフヒストリー研究の意義をさらに 明確化し、分析手法及び枠組みを精緻化する。また、本年は、非直線型キャリア経験を有するインフォーマントへのインタビュー・分析を進めながら、論文として報告を行う。インタビューでは、職種による非直線型キャリアを有する インフォーマントと資質能力の非直線型キャリアを有するインフォーマント、計6-8名を対象に調査を実施する。これらの研究成果は、教師教育学会等の学術雑誌に論文として投稿を行う。また、ライフヒストリーを尊重した学校経営に関する調査分析結果は、研究協力者とともに成果をまとめ、国内外の学会で成果を報告する予定である。本年度は、質的研究による調査及び分析を中心として、可能な範囲で成果の報告を行う。また教師のキャリアパスに関するイメージ調査は、継続して予備分析を行い、11-2月に本調査を実施する。なお、わが国では教員需給において採用予定者数の増大から、教師キャリアへの参入イメージが容易なものと考えられ始めている。そこで、近年、教員需給上採用の厳しい台湾の教員志望学生のイメージとの比較分析を検討することで、その特徴を明らかにしながら、比較教育社会学としての可能性をも検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
特に次年度使用額が生じたのは、旅費と人件費・謝金の費目である。旅費については、本年度、報告を予定していた国内の学会があったが、JUSTEC2017におけるパネルディスカッションへの登壇依頼(本学開催)から、発表内容をここで報告することにしたことや、海外の学会報告で他の科研の成果報告を別日に行ったことなどがある。このことで旅費に関する予算支出を圧縮することができた。また、大学院の担当異動(新設専攻への異動に伴う新たな業務と日程の確保)や他の委員会等の業務により、今年度、県外出張や海外出張の日程調整を控える必要や調整の困難が急遽、生じたため、平成29年度に計画的に調査等を移動させる必要があった。また人件費・謝金については、今年度、インタビュー調査のトランスクリプトを自らで行ったことで、データ入力謝金を圧縮することができた。
|
次年度使用額の使用計画 |
旅費については、県外の調査や海外の資料収集、研究打ち合わせ等の旅費が、平成29年度に多く必要となるため、平成28年度使用額を圧縮した。平成29年度は資料収集及び調査・研究打ち合わせの旅費として、平成28年度に圧縮して生じた次年度使用額を使用する。また人件費・謝金については、平成28年度、教職大学院に異動となり、1年次の大学院生しかおらず、授業時間数の関係で雇用が難しかったが、平成29年度、2年次の大学院生を、次年度使用額も含めて、雇用する計画である。
|