研究課題/領域番号 |
16K13552
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
白松 賢 愛媛大学, 教育学研究科, 教授 (10299331)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 教師教育 / 非直線型キャリア / ライフヒストリー / ナラティブ・インクワイアリー / 教師ナラティブ |
研究実績の概要 |
本研究は、非直線型キャリアに着目したライフヒストリー研究により、教職の多様性と多義性を記述し、直線型成長モデルに基づく教員養成マスターナラティヴの課題を明らかにすることを目的としている。目的を達成するために本研究では、平成29年度、次のサブテーマの研究を遂行した。1)非直線型キャリアの定義とライフヒストリー研究の分析枠組みを確立するため、ナラティブ・インクワイアリーの研究手法の提唱者であるクランディニン教授の研究会および講演会等に参加し、情報収集を行った。その結果、教師の流動的な仕事の有り様を明らかにする上で、「教師ナラティブ」という分析概念を用いることの有効性を明らかにした。これまで教師のキャリアや仕事の研究では、アイデンティティやティーチング・ストラテジー概念が中心に据えられてきたが、それとは異なる研究枠組みの可能性を明らかにしつつある。この分析概念を用いた研究枠組みの実践的応用を中学校でケーススタディを行い、教師の「不安定で不確かな仕事」(非直線型キャリアのプロセス)をナラティブ的再構成により安定化させる取り組みの可能性を第23回台湾教育社会学会で報告した。また「教師ナラティブ」概念を用いた研究枠組みを応用することで、就学前教育と小学校教育の間にある「指導の文化やフィロソフィー」の連続性(ナラティブ的連続性)を明らかにした。幼保小連携で強調される教師の仕事の非連続性ではなく、むしろナラティブの連続性を明らかにしたことは、本研究の分析概念や枠組みの実践的応用を多様なフィールドへと拡張する可能性を拓きつつある。2)非直線型キャリアを辿る調査協力者へのインタビュー(7名)を実施し、ライフヒストリー分析を行った。3)、教師キャリアパスのイメージ調査のアンケート項目のワーディングおよび修正を行い、平成30年度の調査の準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サブテーマのうち、1と2の非直線型キャリアの研究枠組みや調査分析は、研究計画どおりに進捗している。また非直線型キャリアに関わって、教師のアイデンティティ形成やティーチングストラテジーの従来の研究枠組みと異なり、教師ナラティブという分析概念に着目することで、教師のキャリア発達の新たな視点や教師の指導の連続性などの分析を可能とすることや、教育実践への応用可能性を拓くことなど、研究の方法的可能性がさらに広がりつつあることは、当初の予想を超えた成果に繋がりつつある。しかしながら、教職キャリアイメージ調査については、台湾の大学との比較研究に発展させたため、打ち合わせや内容の検討に時間がかかり、平成30年度に調査時期をずらさなければならなくなった。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度29年度の研究を継続し、教職の多様性と多義性を記述し、非直線型キャリアの重要性を明らかにする。平成28年度と平成29年度に実施したライフヒストリー調査におけるインフォーマントのドキュメント資料を分析し、資質能力の非直線型キャリアを有する教員の分析を実施する。なお、分析上の必要に応じて、適宜ライフヒストリー調査を追加する。ドキュメント資料の分析では、非直線型キャリアという教職の「否定的ケース 」(Lindesmith1949)の研究の意義を検討することにより、少数サンプルを対象とした質的研究の意義と調査方法を明らかにする。また、非直線型成長の教師キャリアを強調することにより、到達目標やスタンダードに基づく教員養成や教員研修が成果を上げ得ない「否定的ケース」の意味を明らかにし、直線型成長モデル以外の臨床的アプローチとしての教師ナラティブの研究可能性を明らかにする。さらに、教師キャリアパスのイメージ調査の実施を行い、分析では「経験主義コード」とキャリアパスの問題を検討する。「経験主義コード」とは、「よい教師」のイメージに「多様な経験を積んだ教師」というイメージが組み込まれ、大学での学習よりも、多様な社会体験を希求する教師への志向性を生み出す構造的文脈を意味する。これらの調査分析をもとに総合考察を行い、 日本教育大学協会等の年次研究大会で、直線型成長モデルに基づく教員養成の困難さと、非直線型キャリアモデルを採用した教員養成の必要性を提言する。なお、平成30年度、計画から遅れている教職イメージ調査であるが、この調査を遂行するために2名の研究協力者を踏まえた研究体制を構築した。長谷川祐介(大分大学准教授)、伊勢本大(愛媛大学特定研究員)に、調査結果の分析および共同研究としての考察を依頼し、了解を得ている。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 教職キャリアパス調査を台湾の大学と国際比較調査として実施する上で項目の調整等が必要となったことと、非直線型キャリアに着目した教師研究において、ナラティブの分析概念化により、実践的応用の可能性が拓け、その探究に着手したことで、サブテーマの一つの調査時期を次年度に持ち越すこととした。その結果、台湾への渡航費や調査データの入力分析費を次年度に繰り越すことが必要となった。また本年度、予定していたナラティブ関連の海外渡航を日程調整の結果、平成30年度に移行する必要が出たので、次年度使用額を予定した。その理由としては学内での管理職や学内外での委員会等の業務増加により、出張日程の調整が当該年度内では困難となったため、次年度の日程調整を踏まえての再検討が必要となった。 (次年度使用計画) 当初の予定に加え、ナラティブ関連の資料収集の海外渡航費、台湾の大学との国際共同研究の打ち合わせ・調査旅費、教職キャリアパス調査の調査分析機器、データ入力・分析費に次年度使用額を充当する。
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