本年度は3つのサブテーマを遂行した。第一は,非直線型教員のライフヒストリー分析である。まず平成28年度と平成29年度に実施したライフヒストリー調査におけるインフォーマントのドキュメント資料を用いて,非直線型キャリアを有する教員のライフヒストリー分析を実施した。「アイデンティティ」「発達段階」「ストラテジー」といった概念を実存物として記述することのポストコロニアリズム課題,教師の語る「自己の変容」が社会的文化的文脈,学校現場の組織的制度的文脈に拘束されて意義づけられる<ライフ>であることを明らかにし,日本教育社会学会第70回大会で報告した。他には就学移行期の教師の指導文化に関する調査ドキュメント分析から,教師の仕事や生活のあり方が特別支援教育の観念の広がりから,非連続性よりも「包摂」「成長」を希求する資源化実践という連続性のある指導の文化を創出していることを明らかにした(子ども社会研究第24号)。第二は少数の教員を調査する質的研究の方法と分析枠組みの確立である。第一のサブテーマの分析をさらに発展させ,教師の非直線型キャリアトランジションを探求することにより教員養成や教員研修の規格化と非学問化,実践主義化の問題を明確にできることを明らかにし,解釈学的アプローチとして教師のリアリティ探求の方法と分析枠組みを明らかにした(鄭州大学での報告,教育社会学研究第104集)。第三は,キャリアイメージに関する補完調査として教員志望学生の日台比較調査を実施し,教師の成長に関する言説の受容のあり方を分析した。例えば日本の特色として,教職を強く志望する学生(教職強志望者)は,教師の成長に対して「教職教養」「専門的学習」の必要性を強く感じているが,非教職志望者では社会経験やゲームなどの多様な社会経験の重要性を必要と回答していることなどが明らかになった(中国四国教育学会第70回大会報告)。
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