研究課題/領域番号 |
16K13555
|
研究機関 | 富山県立大学 |
研究代表者 |
濱 貴子 富山県立大学, 工学部, 講師 (10711616)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 女子中等教育 / 進路動向変化 / データベース作成 / 進学率・就職率・家居率の算出 / 職業アスピレーション / 学校文化 |
研究実績の概要 |
本研究は、中等教育において学校文化が女子生徒の職業アスピレーション(将来の職業的地位に向けての志望・達成動機)の形成に及ぼす影響、効果を歴史社会学的な観点から明らかにすることを目的としている。 平成28年度は、文部省統計資料より作成したデータベースを用いた計量的分析をおこない、女子生徒の進路動向の推移を明らかにするという課題に取り組んだ。具体的には、戦前について『全国高等女学校実科高等女学校二関スル諸調査』における高等女学校および実科高等女学校「本科」のデータ用い、全国の各学校における1920年、30年、38年の3時点の進路に関する統計(卒業生数、進学・就職・その他の人数データ)と、学校基本データ(学校種、創立年、所在地、組織改編の有無)をデータベース化し、クリーニングとコーディングを行った。そのうえで、学校ごとに進学率、就職率、その他の割合(家居率)を算出しそれぞれの推移を学校・県・全国の3つのレベルで把握した。次に、各時点で各学校を「進学型」「就職型」「家居型」に分類し、各タイプの割合とその変化を県・全国の2つのレベルで明らかにした。 その結果、戦前期においては、全国的に1920年、30年、38年いずれの時期においても家居率が最も高かった。また、就職率・進学率に関しては、就職率・進学率ともに地域や学校間のばらつきが大きかった1920年から、就職率が顕著に低くなり進学率も微増でかつばらつきも小さくなる1930年、就職率・進学率ともに高くなりばらつきもやや大きくなる1938年へと推移していった。 これまで統計は取られていたものの活用されてこなかった全国中等教育機関の女子生徒の進路動向データを近現代日本における職業アスピレーション研究の資料として位置付けるとともに、進路動向の全国的傾向に加えて、地域間・学校間のばらつきについても明らかにできた点に今年度の研究成果の意義がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究課題の進捗状況について、平成28年度の研究実施計画における戦前期の女子生徒の進路動向の推移の解明という課題に関しては、1920年、30年、38年の3時点からなるデータベースを完成させるとともに進路動向の推移も明らかにすることができ、課題を達成することができたといえる。 一方で、本年度の研究実施計画においては、当初、戦前に加えて戦後の4時点(1950年、1960年、1970年、1980年)のデータベースについてもクリーニングとコーディングをおこない完成させる予定であったが、戦後のデータベースの完成は次年度に繰り越すことになった。このため、現在までの進捗状況の区分について「やや遅れている」を選択した。戦後の女子生徒の進路動向を把握するにあたっては、各都道府県の『学校基本調査報告』における戦前(1938年時点)の高等女学校および実科高等女学校を前身とする高等学校「普通科」のデータを用いているが、各都道府県の『学校基本調査報告』の収集とデータベース化に当初の予定よりも時間を要している。加えて、戦前から戦後にかけて学校制度の変化により起こった学校の統廃合について、戦前と戦後の学校の接続関係を調べるに際して『学校基本調査報告』以外の資料も用いており、このこともデータベースの完成を遅らせる一因となっている。なお、それにともない、戦後の進路動向の推移の解明ならびに学校タイプの分類も次年度に行うこととする。 また、今年度は文部省統計資料のデータベース化を中心に研究に取り組んでいたため、各時点における就職率の規定要因を明らかにするための多変量解析(学校基本データ〔学校種、創立年、所在地、組織改編の有無〕を独立変数として用いた重回帰分析)についても、戦前・戦後ともに次年度に実施することとした。なお、考察を行う際には国勢調査の都道府県別職業(大分類)別人口も考慮に入れることとする。
|
今後の研究の推進方策 |
今後研究を推進するにあたって、まずはすでにデータベース化を完了している戦前期の各時点における就職率の規定要因を重回帰分析によって明らかにする。そして戦前期の知見をまとめ、学会発表を行うとともに論文として投稿する。 次に、戦後の『学校基本調査報告』における女子生徒の進路に関する統計と学校基本データ(1950年、60年、70年、80年の4時点)のデータベース化を完了させ、そのデータを用いて戦後の進路動向の推移の解明ならびに学校タイプの分類をおこなう。さらに戦後についても就職率の規定要因を重回帰分析によって明らかにする。以上の課題を平成29年度の秋口までに完了させることをめどに研究を進めていく。 平成29年度後期には、学校関係資料・ライフヒストリー関係資料を用いた内容分析をおこない、学校文化と女子生徒の職業アスピレーションの形成の関係を解明する課題に取り組む。第一に、資料調査を行う。戦前・戦後の進路動向変化について典型的なタイプの学校を4校抽出し、資料調査を依頼・実施し、学校史、校友会誌、同窓会誌、卒業文集などの学校関係資料と卒業生の自伝、自分史等のライフヒストリー関係資料を収集する。また、資料収集のため各学校への出張を行う。その上で、収集した資料からそれぞれの学校文化の特徴(沿革、校風・教育理念、カリキュラム、地域性、親の職業、理想的女性像、進学先・就職先など)を明らかにする。 第二に、収集した資料から女子生徒(当時/回想)の「将来の夢」「卒業後の抱負」「学校生活で学んだことの職業生活への影響」などの記述を抽出し、職業アスピレーション形成の特性を明らかにする。なお、学校関係資料から学校文化の特性は把握できるが女子生徒の職業アスピレーション形成の特性を把握できる資料が乏しい場合には、調査対象校を通じて戦前・戦後期における卒業生数名にインタビュー調査を依頼・実施し、補足する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由については、年度末に資料調査のための出張をおこない、3月末日までに残金627円を使い切ることができなかったためである。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度は物品費の一部として当該助成金を使用したいと考えている。
|