研究課題/領域番号 |
16K13561
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
片田 房 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70245950)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | セミリンガル / バイリンガル / 母語 / 教育の言語 / 言語格差 / 多言語運用能力像 |
研究実績の概要 |
平成28年度(本研究の初年度)は、本研究の目的を達成するための第一ステージとして、バイリンガルとセミリンガルの間のパラドックスを明確にするためのデータ収集を行った。主な活動の概要は以下の通りである。 ①教育の言語を英語に収れんする言語政策を実施して久しいフィリピン共和国における言語環境を、現地研究協力者の協力を得て、ミンダナオ島に焦点をおき調査・整理した。殊に、誕生から家庭で使用され、母語として習得する現地語に対し、いくつかのフィリピン語を小学校3年次までの教育言語として採用し、更に小学校3年次後半から教育の言語を英語に転換する教育言語政策の背景事情を調査・整理した。 ②同じく現地研究協力者の協力の下に、ミンダナオ島における児童生徒の保護者と教員、及び大学生を対象とするアンケート調査票を作成し、言語意識を問うパイロット調査を実施した。また、日本語が遺産言語として機能している家庭の言語意識パイロット調査をオーストリアにおいて実施した。(ミンダナオ島におけるアンケート調査に関しては、アンケート調査で回答された言語意識の信憑性を測り高めるため、フォッカス・グループ・ディスカッション(FGD: Focus Group Discussion)を研究代表者も出席して実施する予定であったが、現地研究協力者の所属する機関の都合と現地の治安事情等の理由から延期となった。) ③ミンダナオ島におけるタガカウロ語(Tagakaulo)に焦点をおき、母語として習得する現地語と教育の言語(ビサヤ語および英語)との間の乖離を探るため、タガカウロ語で語られる民話とそれらのビサヤ語と英語への翻訳のデータを整理した。更に、使用された単語を辞書項目化し、分析の準備を整えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の中心的な位置を占めるミンダナオ島の言語意識調査において、現地研究協力者の所属する機関の学事歴の変更と現地の治安事情等の理由から、研究代表者の現地への渡航計画を実施することができず、アンケートの調査結果の信憑性を高めるためのフォッカス・グループ・ディスカッション(FGD: Focus Group Discussion)を延期することになった。これに連動して、成果を発表する活動も延期となった。但し、パイロット調査や得られたデータの解析は順調に進行しており、包括的にはおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
バイリンガル’と‘セミリンガル’の関係性を精査することを中心に、以下の活動を展開する。 ①平成28年度に作成した「母語と教育の言語」との間の意識的乖離を問う言語意識調査票の多言語版を作成し、国内外における調査を拡大すると共に、やや遅滞している部分(フィリピン共和国におけるアンケート調査の拡大とフォッカス・グループ・ディスカッションの実施)を進展させる。 ②言語意識調査の結果に基づき、言語環境が学習熟達に及ぼす影響を可能な限りパターン化する。その結果に基づき、バイリンガルの定義を再確認した後、思考に直結する言語の習得度が不完全な状態を意味する‘セミリンガル’という用語の呈示が妥当であるかどうかを精査する。 ③本研究の成果発表と社会への還元活動を可能な限り推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の中心的な位置を占めるミンダナオ島の言語意識調査において、現地研究協力者の所属する機関の学事歴の変更と現地の治安事情等の理由から、研究代表者の現地への渡航計画を実施することができず、アンケートの調査結果の信憑性を高めるためのフォッカス・グループ・ディスカッション(FGD: Focus Group Discussion)を延期することになったため。
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次年度使用額の使用計画 |
本繰越金額は、当年度に実施できなかったフィリピン共和国における調査にかかる経費(渡航費と研究協力に対する謝礼)に使用する他、成果発表に伴う経費に使用する。
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