研究課題/領域番号 |
16K13561
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
片田 房 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70245950)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マルチリンガル / セミリンガル / オートリンガル / 母語による公教育 / 継承言語 / 言語格差 / 多言語運用能力像 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、バイリンガルとセミリンガルが表裏一体の言語能力現象として表出する可能性のあることを明確にし、グロバール化時代の言語格差の観察を深めた。また、研究協力の可能性を開拓し、モンゴルとボリビアへの言語意識調査の拡大を図った。主な活動の概要は以下の通りである。 ①1999年にユネスコが宣言した国際母語デーの基本精神を推進する上で、世界の多言語事情の前に直面する問題点を明確にした。特にフィリピン共和国のミンダナオ島の現地語の多様性と教育言語の実情に基づき、母語による公教育の実行が困難な地域の言語事情には、世界に存在する様々な継承言語にも通じる普遍性があることを示した。 ②超多言語地域において母語として習得される現地語と教育の言語との間の乖離を示すため、前年度に辞書項目化したミンダナオ島のタガカウロ族に伝わる民話のデータを基に、タガカウロ語と教育の言語に表れる語彙間の差を分析し、教育を現地語で行う際に予測される認知的な不利益について考察を深めた。分析の完了と結果の数値化は次年度に完成させる。 ③前年度と同様に現地研究協力者の協力の下で言語意識アンケート調査を続行した。一方、回答の信憑性を高めるためのフォッカス・グループ・ディスカッションは、現地の治安事情のため、研究代表者が出席して実施する計画を再び延期することとなった。 ④グローバル化の時代において国際語の必要性が謳われる中、情報分野において発達を続ける翻訳・通訳技術をサイバー・リンガ・フランカと名称し、すべての人がオートリンガルになる日がやってくるという見解をまとめた。平成29年度(2017年度)は、人工世界言語であるエスペラント語の創案者であるルドヴィコ・ザメンホフの死後100年にあたり、生誕地ポーランドで開催された国際記念フォーラムにて、言語格差を解消する手段はサイバー・リンガ・フランカであるという見解を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の中心的な位置を占めるミンダナオ島の言語意識調査において、現地の治安事情の理由から、研究代表者の現地への渡航計画を前年度に続いて延期することになった。これに伴い、代表者同席の元に実施する計画であったフォッカス・グループ・ディスカッション(FGD: Focus Group Discussion)も次年度に延期することになった。しかし、国内外の学会等での問題提起は順調に進展し、調査地域の拡大とセミリンガルやオートリンガルという新用語の定義の検討も順調に進み、総体としておおむね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
‘セミリンガル’の定義を深めて学術用語にまで高め、研究分野の進展に貢献することを中心に、以下の活動を展開する。 ①言語意識調査において遅滞しているフォッカス・グループ・ディスカッションをミンダナオ島において治安状態の許す限り研究代表者が渡航して立ち合いのもとに実施する。 ②教育を現地語で行う際に予測される認知的な不利益について、データ分析の完了と結果の数値化を進める。 ③バイリンガルを含むマルチリンガルの定義が、学習力を支える言語能力についての主要な説とバランスがとれるかどうかを精査する。また、セミリンガルという用語の呈示が妥当であるかの精査を続行し、結論を出す。 ④平成30年度に発表することが決定しているInternational Conference on Language in Focus 2018 (ギリシャ開催)及びThe 20th International Congress of Linguists (第20回世界言語学者会議, 南アフリカ共和国開催)にて、本研究成果を発表すると共に、東ヨーロッパとアフリカ大陸の多言語教育事情についても情報収集を行う。加えて、言語意識調査のアジア大陸と南米への拡大を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
<理由>上述したとおり、本研究の中心的な位置を占めるミンダナオ島の言語意識調査において、現地の治安事情の理由から、研究代表者の現地への渡航計画を実施することができず、アンケートの調査結果の信憑性を高めるためのフォッカス・グループ・ディスカッションを延期することになったため。
<使用計画>当年度に実施できなかったフィリピン共和国における調査にかかる費用(渡航費と研究協力に対する謝礼)に使用する他、アジア大陸と南米への拡大調査計画に使用する。また、主に国際学会における成果発表に伴う経費に使用する。
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