本研究補助期間の延長年である2019年度は、研究課題の普遍性の高さを認識し、より多くの言語圏をカバーする活動を目指すと共に、本研究の中心的な位置を占めるミンダナオ島の言語意識調査において、現地の治安事情から滞っていた活動を実施すると共に、現地小・中・高校生の言語背景とクラス分けの実態調査及び教育言語との乖離の有無に関する調査を行い、研究の完成度高めた。活動の詳細は以下の通り。 ①超多言語地域の少数派言語の一例として、現地の本研究協力者によって収集されたタガカウロ語の約70の民話を基に分析済みの辞書項目の形態素境界の正確性を確認する作業を行った。タガカウロ語の教育言語としての妥当性を分析し、ビサヤ語が教育言語として使用されている環境下で子ども達の被る不利益の有無を学習力の発達の観点から考察した。 ②多言語話者の各言語に対する快適度を調査する言語意識調査表の改訂版を開拓してアンケート調査を実施すると共に、これまで滞っていたフォッカス・グループ・ディスカッション(FGD: Focus Group Discussion)を実施して言語意識度を標準化する作業を進めた。 ③現地教員と大学院生を対象とするセミナーにて、学習力を支える言語の役割りをテーマとする講演を行い、セミリンガル現象と学習力の関連性についての啓蒙活動を行った。 ④本研究テーマが世界に存在する様々な継承言語にも通じる普遍性の高さを再認識し、南米(ボリビア・サンタクルス地区)の多言語状況、継承言語、及び教育言語の実態調査を現地日本領事事務所に勤務する文化担当員を通して行った。また、ロシアの研究者が多数集うギリシャ・リシムノで開催された認知フォーラムにて研究発表を行い、マルチリンガルの背後にあるセミリンガル現象の啓蒙に努めた。
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