研究課題/領域番号 |
16K13566
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
山本 容子 筑波大学, 人間系, 助教 (40738580)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | バイオフィリア / 生命愛 / 環境教育 / キャンベル生物学 / ウィルソン |
研究実績の概要 |
本研究では、生徒のバイオフィリアへの気づきを促し、環境倫理意識を高め、環境保全に寄与する態度と行動力を育成する高校生物の生態学分野における環境倫理教育プログラムを開発し、環境倫理教育の理論と実践に関する基礎知見を得ることを主目的とした。バイオフィリアは、近年、生徒の環境倫理意識を高め、生物多様性の保全の動機付けを強めるものとされ、北米、北欧諸国を中心として注目されている生命愛の概念である。 今年度は、上記の目的を達成するための第一段階として、近代の生物学、および、環境思想の流れの中でのバイオフィリアの出現・展開と、その特質を明らかにするための文献調査を行なった。具体的には、以下の点が明らかになった。 第一に、バイオフィリアの概念はウィルソンの熱帯雨林でのフィールドワーク中に想起され、その基盤は社会生物学であること、1970年代に出現した環境倫理学と関連させて議論されていることが明確になった。 第二に、生物学については、大学の生物学教科書『キャンベル生物学』の原書とコンパクト版であるCampbell Essential Biologyの最新版において、バイオフィリアが保全生態学分野の最後で扱われ、生物多様性の保全のための環境倫理を生徒に強く動機づける概念として紹介されていることが明らかになった。また、環境倫理学の文脈においては、バイオフィリアは仮説というより概念として扱われていることが示唆された。 第三に、バイオフィリアは、環境教育、科学教育、音楽教育、治癒教育など様々な教育分野に導入され、議論されており、特に実践研究では、バイオフィリアの実証研究となる「バイオフィリア仮説」に基づいたアプローチを行なった科学教育、生物教育がアメリカを中心として展開されていることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
バイオフィリア、および、生物多様性の提唱者であるE.O.ウィルソンの著書や関連図書・資料の収集、および、バイオフィリア仮説に至る背景・出現・発展に関する内容の整理、分析は順調に進んでいる。 生物学(特に 生態学)、環境倫理学、環境思想におけるバイオフィリアの議論に関する文献は一部収集し分析を進めている。特に、生物学に関する文献は、次に示した『キャンベル生物学』を中心に生態学分野の内容分析を終えたところである。 『キャンベル生物学』の原書であるCampbell Biology(最新版10th,2013)、コンパクト版であるCampbell Essential Biology( 最新版6th,2015)の初版から最新版の内容分析については、その成果の一部を理科教育学会、生物教育学会にて発表した。その他の、大学の生物学のテキスト、例えば『ケイン生物学』、『細胞の分子生物学』、もしくは、辞典『生物学辞典』等の内容調査も進めている状況である。 そして、学校教育のみならず社会教育まで広げた環境教育、科学教育におけるバイオフィリアの概念の教育への導入の議論、実践事例に関する文献については、現段階で収集、分析したものに関しては、理科教育学会、生物教育学会にて発表した。具体的には、アメリカの生物教員の授業実践に関するジャーナル"The American Biology Teacher"等に掲載された実践論文の内容分析を進めた。 さらに、申請者がこれまで行ってきたディープ・エコロジーの視点を導入した環境教育と、バイオフィリアの視点を導入した環境教育との関連については、アメリカの環境教育に関する先行研究を収集し、分析を始めている。 以上より、達成度を総合的に評価した結果、全体としておおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、バイオフィリアの概念を導入した環境教育、科学教育の理論的・実践的研究についての文献収集とその内容分析を行う。特に、以下の文献調査を重点的に行う。1点目として、生物学におけるバイオフィリアの扱いやバイオフィリアの概念を導入した環境教育の実践事例に関する文献調査を行う。2点目として、環境教育、科学教育、音楽教育、治癒教育など様々な教育分野に導入され、議論されているバイオフィリアであるが、生物教育と関連した実践研究について、引き続き調査を行う。特に、北米では、学校教育における環境教育、大学教育における生物教育、そして、バイオフィリア仮説に基づいたバイオフィリック・デザインを取り入れた学習環境の整備と授業における活用事例がみられるため、関連する文献を重点的に分析する。 次に、上記の文献調査をもとに、申請者がこれまで行ってきたディープ・エコロジーの視点を導入した環境教育の実践結果とバイオフィリアの視点を導入した環境教育との比較・分析を行う。 さらに、日本の高校生のバイオフィリアの概念、生物多様性の重要性の認識、および、環境倫理の視点に対する意識の特徴を解明するため、質問紙を作成し、意識調査を行い、その結果を分析する。環境倫理意識に関しては、申請者が既に、ディープ・エコロジーの概念を主とした高校生対象の質問紙調査を行っているが(拙稿、高校生の環境倫理意識の実態、『理科教育学研究』、53巻2号、pp.343-358、2012)、バイオフィリアの視点について、そしてその概念と環境倫理との連関という視点での調査は行っていないためその点をより明確に調査する。
|