研究課題/領域番号 |
16K13567
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
大高 泉 筑波大学, 人間系, 教授 (70176907)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 近代科学の基本的自然観 / ドイツ科学教育論 |
研究実績の概要 |
近代自然科学(以下、近代科学と略記)を生み出し得なかった我が国など、非西洋の国々であっても、理科教育の主たる課題は、子供たちに自然科学を創造する力を育成することである。そのためには、非西洋の国々の伝統的自然観とは異なる近代科学の基底にあり自然科学を生み出した基本的自然観(例えば、機械論的自然観、法則性の存在観、要素還元主義的自然観など)を子供たちに形成する必要がある。我が国は明治期にドイツの科学教育を導入して理科教育の原型を形成した。ドイツの科学教育を導入する際、近代科学の基底にある基本的自然観の再生産はどのように行われたか、また失敗したのか、この近代科学の基本的自然観の形成・再生産の問題は、我が国のみならず、非西洋諸国の科学教育・理科教育にとっての根本問題である。 そこで、本研究は、明治10年代以降に始まったドイツ科学教育の導入のなかで、近代科学の基本的自然観の形成・再生産がどのように行われたか、その問題点は何かなど、近代科学の基本的自然観の再生産の問題を解明することを主目的としている。そのうち特に、平成28年度は、明治の理科教育が近代科学を欧米から導入した際、この近代科学の基本的自然観の育成・再生産の問題をどのように扱ったかを解明を進めた。トク・ベルツの講演からすれば積極的に育成・再生産に努めたとは予想しがたいが、その実相は全く明らかになってはいない。この実相解明の基礎として、先ず、当時のドイツ科学教育論を収集・整理し、それらにおける基本的自然観の形成・再生産についての理念を進めた。これと並行して、西欧近代科学の基本的自然観の理念と日本の伝統的自然観の理念の比較分析を進めるため、日本に蓄積されている渡邊正雄、伊東俊太郎、村上陽一郎等による関連研究を精査し、科学・理科教育という文脈における両自然観の比較分析の基盤を形成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記のような自己評価になった理由は、第一に、ドイツ科学教育論は、近代科学の基底にある自然観と共通する地域的文化的コンテクストの中で形成されたためか、特に自覚的に近代科学の基本的自然観について自覚的でまとまった論述はほとんどなく、分析者の推定による部分が大きく、予定外の労力と時間を要したためである。第二に、近代科学の基本的自然観と日本の伝統的自然観との比較分析では、定評のある渡邊正雄、伊東俊太郎、村上陽一郎の先行研究のみならず、関連研究が進展し、その収集・分析に想定外の時間と労力を要しているためである。
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今後の研究の推進方策 |
上述の第一の理由に関しては、ドイツ科学教育論における近代科学の自然観の分析では、日本に移入された代表的なドイツの科学教育論者、例えば、ユンゲ、ケール、クリューガー、キスリングなどに限定して分析を進める。第二の理由に関しては、近年進展した関連研究であっても、科学教育の観点から見ると、共通理解に達している両自然観の比較分析を手がかりにすることを基本として進めることにする。
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