近代自然科学(以下、近代科学と略記)を生み出し得なかった我が国など非西洋の国々であっても、科学教育・理科教育(以下、日本の科学教育は「理科教育」と表記)の主たる課題は、子供たちに自然科学を創造する力を育成することにある。そのためには、非西洋の国々の伝統的自然観とは異なる近代科学の基底にあり自然科学を生み出した基本的自然観(例えば、機械論的自然観など)を子供たちに形成する必要がある。我が国は明治期にドイツの科学教育を導入して理科教育の原型を形成した。ドイツの科学教育を導入する際、近代科学の基底にある基本的自然観の再生産はどのように行われたか、また失敗したのか、近代科学の基本的自然観の形成・再生産の問題は、非西洋諸国の科学教育・理科教育の根本問題である。 平成28年度、平成29年度の研究の継続と成果を踏まえて、平成30年度は、特に、理科教育の文脈における日本の伝統的自然観(ローカルな自然観)と西洋の自然観(グローバルな自然観)との相違に着目して研究を進め、その一端は日本科学教育学会の論文として公表し、主として次の2点を指摘した。 (1)自然の知についての西洋化・標準化に呼応して学校教育としての科学教育が欧米の科学教育を導入して明治期に始まった。日本における科学の教育は開始当初よりグローバル化・標準化の下で開始・成立したこと。 (2)明治以来、自然についての日本の知は背景に退き、日本の理科教育が西欧生まれの近代科学の基本的自然観の再生産を図ってきた。標準化としてのグローバル化に呼応した理科教育によってさらにこの事態が徹底化されることが予想される。しかし一方、近代科学を生み出した西欧とは異る日本の伝統的自然観が新しい科学研究を拓く可能性が指摘されており、自然の知についてのグローバル化がこの可能性の低下をもたらす懸念があること。
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