本研究の目的は,児童の能力特性と絵画表現の関わりや教科学習との関連を詳らかとすることである。その手立てとして,次の3つの調査を行った。調査Ⅰでは,ハワード・ガードナーが提唱する8つの知能に基づいた「MI理論」を用いて、認知的な側面から能力特性を測る質問紙調査を児童(国立大学附属小学校5年生)に対して実施し,当該学年時に学校が一斉に実施した知能検査の結果と比較を行った。調査Ⅱ・Ⅲでは,美術教育の専門家(国立大学教育学部図工美術専修教員3名)に当該児童が5年次に描いた絵の評定を依頼し,それを踏まえて更に考察を進めた。この評定についてはSD法を用い10対の形容詞を使って5段階評定を行った。データ分析については、統計学の専門家が因子分析等を行い、最終的には8つの下位尺度と、5段階評価を行った形容詞対との相関係数を計算して導き出した。その結果,MI理論における8つの知能のうちの「身体運動的知能」は表現の行為性と,「対人的知能」は絵画の感覚的な表現と関係があることが示唆された。これらはいずれも「コミュニケーション」と関連することから,絵画表現は学習環境を形成する重要な一要素である「コミュニケーション能力」との関わりが深いことが確認された。それは学習指導要領に見られる「生きる力」を構成する重要な要素であり、少なくとも小学5年生の児童における絵画表現は、そうした力を涵養する貴重な手立てとなることが確認できた。また,知能検査における「直感判断力」は多くの知能と関わりがみられ,図工・美術の授業はガードナーが提唱する8つの知能を十分に活性化できる教科であることが示唆された。
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