研究実績の概要 |
阪神・淡路大震災や福島第一原子力発電所の事故により,我が国の防災教育は大きな影響を受けており,原子力発電所等の有害物質を含んだ二次災害に対する防災教育,所謂,原子力防災教育の確立が望まれている。そこで,国内の原子力防災教育の現状を調査すると共に,普及のための課題を教員研修活動等を通じて考察した。その結果,原子力発電所立地県や立地自治体では原子力防災マニュアルの整備がなされているが,児童生徒の心のケアや避難所の運営等に差が見受けられた。また,原子力防災教育の普及を図るためには,防災教育のフレームを活かしつつも,放射線に関する情報等の入手方法とその活用や電力需給システムの理解向上といった各教科の関連学習と,価値判断・他者理解を含めた道徳などの学習の充実を図る必要があることが分かった。例えば,長崎県内のUPZ(緊急時防護措置を準備する区域)圏内の防災教育拠点校では,新学習指導要領への移行と働き方改革への対応を踏まえながら,既存の理科や社会の自然災害・防災につながる基礎学習をベースに道徳との連携を図る中で防災教育の充実を検討しているが,地域人材や関連史跡等の教材資源の活用と総合的な学習の時間と連携意識は低い状況が見受けられた。一方で,地域住民の原子力発電に対する忌避意識も強い状況がある結果を踏まえると,児童生徒が関連する教科内容の学習で得た知識・技能を避難時期・方法,対処法の判断に活用し,地域住民に情報発信することで,地域住民の信頼と安心を育むことも必要であると言える。さらに,これらの学習を支えるためには,教員研修で明らかになった理科教員の放射線への理解度や学習意欲に対するばらつきの大きさを考えると,外部教育支援者等とのネットワーク作りや管理職を中心とした教職員の原子力防災教育へ対する理解増進による教育課程の編成が必要であり,コミュニティスクール制度の活用と充実が望まれる。
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