研究課題/領域番号 |
16K13605
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研究機関 | 常磐短期大学 |
研究代表者 |
室谷 直子 常磐短期大学, 幼児教育保育学科, 准教授 (70400653)
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研究分担者 |
細川 美由紀 茨城大学, 教育学部, 准教授 (70434537)
井上 知洋 聖学院大学, 人間福祉学部, 助教 (30635016)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 形態素意識 / 読み書き発達 / 音韻意識 / 読みの流暢性 |
研究実績の概要 |
平成29年度において研究代表者らは,形態素意識と読み書き能力との関連性について研究を進めた。前年度までに,小学校入学前後から3年生春までの読み関連技能の発達において,命名速度,音韻意識,形態素意識といった認知的要因が一定の役割を果たすことが示されたが,中でも形態素意識は,発達とともにその重要性が増大する可能性が示された。そのことから29年度は,それをより詳細に検討するため,小学校中高学年(4年生および6年生)の各々約50名を対象とし,読み関連技能として文読みの流暢性,漢字読みの正確さ,および漢字書字の正確さを従属変数とし,説明変数として新たに複数の異なる形態素意識を測定する課題を作成し,これを中心に読み関連技能を説明しうる要因を重回帰分析により調べた。 その結果,文読みの流暢性の説明因は4年生では形態素意識と語彙が指摘されるが,6年生になると語彙のみとなり,高学年になると文をスムーズに音読するために言葉の概念を理解していることがキーとなりうることが示された。漢字の読み書きについては,いずれも4年生においては語彙の関与が認められるものの,6年生になると有意な説明因は形態素意識のみとなった。 これらの結果を,小学校低学年を対象とした過去の研究結果とを重ね合わせると,読み書き技能のうち漢字の読み書きを説明しうる要因として,音韻意識の関与は発達とともに低下する一方で,形態素意識は高年齢になるほど関与が確固たるものとなる可能性が指摘できる。一方,流暢性については少し様相が異なり,低~中学年ではむしろ音韻意識や形態素意識が重要であるが,高学年になると形態素意識より語彙力の重要性が増すように発達的に変化していくことが考察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度には,小学校による研究協力のもと100名余りの児童のデータ収集を行い,結果を解析することができた。前年度から検討を始めた形態素意識の課題は,単語の派生・屈折を測定することを意図した「単語類推課題」の他,単語の複合への気づきを測定することを意図した「複合分解課題」と「異形同音異義語課題」を,研究分担者と協力して作成し,測定を実施した。しかしこのうち「異形同音異義語課題」については,実施に多少時間がかかることから,データ収集の際の時間的制約によりサンプル数を十分に確保できず,計画通りに分析に供することができなかったことが反省点である。このため,形態素意識の分析は原則として残りの2課題に関するデータを中心に実施した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は本研究計画の最終年度となるため,現時点までの研究成果を学会発表,論文執筆等を通して公表する準備を進める予定である。 また,当初の研究計画の中には,形態素意識と読解力との関連性を明らかにすることが含まれており,29年度の研究はそれに向けたステップであるという側面を含むものであった。実際29年度に,流暢性と漢字の読み書きとでは形態素意識の果たす役割がやや異なることが示唆され,最終的にこれらが読解にどう影響するのか,追究への興味はさらに高まった。 しかしその一方で,低中学年の読み流暢性や高学年の漢字読み書きへの形態素意識の関与が明らかになったことで,子どもたちの学習指導にこの観点を導入することの効果を明らかにすることの意義が,研究代表者らはもとより研究協力者(小学校)からも見いだされた。 そのことから30年度は,上記の二つの推進方策を念頭に置き,より効果的に研究を進めるための環境的要因を加味しながら,現在慎重に計画を策定・検討中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた学会参加を,本務との兼ね合いで中止したことや,次年度の予算配分が少なめのため,次年度の成果発表等の支出に備え支出を控えた事が要因である。 次年度は,成果発表のための旅費,調査研究のための人件費等が主な支出として見込まれる。
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