研究課題/領域番号 |
16K13612
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
黒田 眞司 筑波大学, 数理物質系, 教授 (40221949)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 単一スピン / 交換相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究は、半導体ドット中に遷移元素の原子1個を含む試料を作製し、ドット中の単一磁性スピンの振舞いを光学的手法により詳細に調べ、その振舞いを制御する手法を開発することにより、単一スピンを用いたメモリー実現への応用可能性を探索することを目標としている。今年度は、分子線エピタキシー(MBE)法により作製したCdTe自己形成ドットでドットあたりCr原子1個を含む試料に対し、顕微フォトルミネッセンス(PL)装置を用いて種々の光学測定を行い、ドット中のCr単一スピンの振舞いを詳細に調べた。その結果、以下のことを明らかにした。 (1) 単一のドットからの発光の時間相関測定を行い、単一Crスピンの時間的揺らぎを評価した。自己相関スペクトルにおいてバンチングの現象を観察し、その線幅よりCrスピンの揺らぎの時間が20ns程度であると見積もられた。またポンププローブPL測定においてCrスピンの特定の準位を励起し、別の準位の発光の時間変化を観測し、Crスピンの緩和過程を調べた。その結果、励起子が存在しない暗状態ではCrスピンの緩和時間は約2 microsと比較的長いことを見出した。これはドット中のCrスピンを利用したメモリー実現の可能性を示す結果であると言える。 (2) 磁場中のPLスペクトル測定を行い、Crの各スピン状態に対応する発光線の磁場による強度変化を解析した。その結果、正孔とCrスピン間の交換相互作用は反強磁性的であることが明らかとなった。これはバルク結晶において従来知られていたのとは逆の結果である。その原因は、Cr準位と価電子帯のエネルギーの大小が格子歪の影響で変化したためではないかと考えられる。 (3) ドット試料に電場を印加できる構造を作製し、電場印加によるドットの発光スペクトル変化を調べた。その結果、Crスピンとの交換相互作用による励起子発光線の分裂のエネルギーが電場印加により変化するという奇妙な現象を見出し、現在、その原因を考察中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Cr原子1個を含むCdTeドットからの発光スペクトルをその時間変化も含めて詳細に調べ、Crスピンの時間揺らぎや緩和過程などを明らかすることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で見出されたCrスピンと正孔の交換相互作用の符号や、電場印加による分裂エネルギーの変化について、その原因を考察する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
試料作製に用いる分子線エピタキシー(MBE)装置に不具合が生じ、4ヶ月間試料を作製できない状況が続いたため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、MBE装置によるドット試料の作製、および光学測定の経費として使用する予定である。
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