研究課題/領域番号 |
16K13613
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
加藤 雄一郎 国立研究開発法人理化学研究所, 加藤ナノ量子フォトニクス研究室, 主任研究員 (60451788)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ナノチューブ・グラフェン / フォトニック結晶 / ナノ構造物性 / ナノ物性制御 / 光物性 |
研究実績の概要 |
2017年度は、フォトニック結晶共振器をラマン散乱光と結合させるための設計を最適化したほか、カーボンナノチューブを直接合成したデバイスやグラフェンを転写したデバイスの評価に取り組んだ。 デバイス設計は六角格子フォトニック結晶スラブにシフトL3型欠陥を導入したものを用い、基板材料であるシリコンの発光より共振波長が十分長い波長となるように、格子定数および空孔サイズを調整した。デバイス作製ではシリコン・オン・インシュレーター基板を用いて電子線描画、ドライエッチング、ウェットエッチングにより、チップ上に数百個程度の共振器を加工した。試作デバイスを試料走査型共焦点顕微分光装置によりフォトルミネッセンス測定で評価し、ラマン散乱光の増強を調査するために適したデバイス設計を決定した。 作製したデバイス上に化学気相成長法により直接カーボンナノチューブを合成した。また、カーボンナノチューブと結合したデバイスとの比較のため、ほぼ同じ波長でラマン散乱光を発生するナノカーボン材料であるグラフェンを転写したデバイスを作製した。これらのデバイスに対して、ラマン散乱光の増強について調査したところ、両者でラマン光の増強が得られることが明らかになった。特に、グラフェンを転写したデバイスにおいては、再現性良く増強が起きることが分かり、また、共振器モードとラマン散乱光の共鳴に加えて、局在化した伝搬モードと励起光が共鳴する現象が起きることで、さらに大幅な増強が観測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではフォトニック結晶共振器の設計やQ値、ナノチューブ材料の直径分布やカイラリティ純度、そして共振器上へのナノチューブの塗布方法の影響などを詳細に調査して、カーボンナノチューブとフォトニック結晶を融合させたデバイスおよび材料の最適化に取り組んでラマン散乱光の増強に必要な条件を明らかにし、カーボンナノチューブとシリコンフォトニック結晶共振器を融合させたハイブリッドラマンレーザーを実現することを目的としている。今年度は、ラマン散乱光の増強を評価するために適したフォトニック結晶共振器の設計および作製を実現し、また、ラマン散乱光がフォトニック結晶の共振器モードとの結合により増強するという期待されていた結果に加え、局在化した伝搬モードと励起光の共鳴によってさらに増強できることが確認できており、おおむね順調に研究が進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続きデバイスの試作と測定に取り組み、グラフェンを転写したデバイスにおいて観測されたラマン散乱光の共振器モードおよび伝搬モードによる増強についての理解を深め、ラマン光のさらなる増大を目指す。これら二つの増強機構が同時に起きる二重共鳴状態を実現するために、共振器モードだけではなく伝搬モードの共鳴波長を調整することを試みる。また、より高効率な光結合を得るために、グラフェンの転写手法についても検討する。カーボンナノチューブを直接合成したデバイスについて、グラフェンを転写したデバイスで得た知見を活用して、同様に再現性良くラマン光の増強を得るための検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は初年度にフォトニック結晶共振器の高Q値化に取り組み、二年目にナノチューブ材料の最適化を進める計画であったが、グラフェンを転写したデバイスでもラマン光の増強が得られることが明らかになったため、カーボンナノチューブと結合したデバイスと比較することでラマン光の増強についてさらなる知見が得られる可能性が出てきた。そこで、計画を修正してグラフェンを利用したデバイスとの比較実験に取り組むこととした。そのため、未使用額が生じた。 当該研究費は、ラマン散乱増強の評価に用いる光学系の改良に必要な光学部品などの消耗品に支出するほか、成果発表のための旅費や学会参加登録費、論文掲載料、また、試料作製に必要なクリーンルーム使用料などに充当する計画である。
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