研究課題/領域番号 |
16K13615
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
阿部 真之 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (00362666)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 原子間力顕微鏡 / 氷 / 環境制御 |
研究実績の概要 |
結晶成長や化学反応といった現象は、温度や湿度、ガス、液中などの幾つかの環境要因によって、得られる結果が異なることがあるが、これをナノ~原子レベルで現象を捉えることはこれまで非常に難しいとされてきた。例えば、原子間力顕微鏡(AFM)の場合、市販の温度制御セルや密閉セルがすでに存在しているが、「温度のみ」や「ガス種のみ」といった限定的な制御による測定がほとんどあった。特に、ニーズの高い温度制御においては、試料部分だけのコントロールになるため、熱ドリフトの影響が大きく、原子レベルでの測定例は困難とされている。環境を精密に制御するには、周辺環境からの影響を低減しなければならないという観点からは、装置サイズを小さくすることが必須であるが、光学系を有する従来型のAFMでは技術的に実現が難しかった。 以上をふまえて、そこで本研究では、複数の環境を制御できる原子間力顕微鏡(FM-AFM)を実現し、氷表面測定へ応用することを目的とした。具体的には、光学系を用いない自己検出型のFM-AFMのセンサ部分や走査部分、粗動アプローチといったすべてを、密閉された密閉型小型容器に格納された装置を開発した。FM-AFMは自己検出型のセンサを用いた。ステージはPZTモーターで試料の粗動を可能として、外部からカメラで動きを観察できるようにした。今後、温度と湿度といった複数の環境制御が精度良く行えるようになり、空間分解能の向上が期待できる。 本年度は密閉型のFM-AFMの装置を設計・組み立てをおこない、原子レベルでステップ&テラスが存在しているアルミナ表面における画像取得をおこなった。その結果、装置が垂直方向には原子分解能を有していることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・複数環境制御小型FM-AFMを実現したため 複数環境を制御するための小型FM-AFMを実現した。具体的には、AFMセンサ部分や走査部分、粗動アプローチといったすべてを、高さ5cm程度の密閉型小型容器に格納することに成功した。密閉型小型容器を温度制御用インキュベータに格納できるようにする。特に温度の制御性を高めるために、インキュベータに加えてペルチェ素子を測定試料近傍に配置させる設計とした。このような制御を行うことで、試料部分だけを故意に変化させ、試料表面の水分量を調整することも可能である(これは氷の結晶化において重要である)。この装置を用いて、アルミナ表面の単原子ステップ測定を行った。その結果、アルミナのステップ&テラス構造の観測に成功し、垂直方向には原子分解能を有していることを実証した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)氷結晶成長環境における氷分子の分子分解能観察 上述した小型FM-AFMを、氷結晶成長環境(0℃以下)での測定に最適な環境にできるよう装置の整備を行う。具体的には、温度・水蒸気量をコントロールしながら測定することが必須である。これまでの長嶋の氷結晶成長観察装置作製の経験を活かし、ペルチェ素子による測定試料温度の制御と窒素ガス導入による湿度制御を行う。この方法によって、先行研究(例えば、A. Doppenschmidt et al. J. Phys. Chem. B 102, 7813(1998))では不可能であった温度および湿度を制御した環境において氷結晶表面の擬似液体層の分子分解能測定に挑戦する。探針の振動振幅や試料との距離を最適化させ、氷分子を画像化する条件を見い出す。
(2)XZマッピングによる氷結晶成長の分子分解能観察 氷結晶表面のFM-AFM観察において最も問題となるのは、探針を氷表面に接触さ せて走査する際に擬似液体層が変形・移動してしまう可能性である、と考えている。この原因で画像測定ができない場合は、全く別の測定方法としてXZマッピングも検討する。この方法はサンプルから十分に離れた高さで横(X)方向に探針を移動させてから液滴表面の高さ(Z)位置を検出するため、擬似液体層を横に引きずることは無くなる可能性がある。これまでSi(111)-(7x7)をはじめとする様々な表面でのXZマッピング測定に成功している。以上のような方法を駆使し、2種類の擬似液体層の3次元トポグラフ像の取得を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
装置の設計段階において部品点数や加工の複雑さがないように工夫することで、部品制作費を削減できた。また、当初計画していた北海道大学への旅費は先方からのサポートがあったため、予定額より少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
自己検出のためのAFMセンサ部分を改良するための費用と学会発表費用に利用する。
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