研究実績の概要 |
本研究は、バレートロニクスの舞台として注目されるⅥ属遷移金属ダイカルコゲナイド(MX2, M = Mo, W, X = S, Se)大面積単層膜を用いた新奇物理現象の探索と機能性素子実現に挑戦する。申請前の段階で、我々は世界に先駆けて大面積なMX2単層膜の成長と、電解質を用いた電気二重層トランジスタ作製に成功した。本研究では、応募者らにノウハウが蓄積されたこの絶好の機会を逃すことなく、大面積試料と電気二重層の組み合わせにより初めて実現可能な、①電界効果誘起超伝導、②高輝度・円偏光発光素子、③Valley機能に起因するゼーベック効果、の三機能の実現に挑戦した。最終年度における各研究項目の成果は以下となる。 ①電界効果誘起超伝導:昨年度に引き続き、平方センチメートルあたり10の14乗のキャリアをドープし、電気抵抗の温度変化を極低温まで測定した。その結果、明確な金属伝導だけではなく、超伝導を期待させる若干の抵抗の現象を観測したが、試料依存性が大きく今度の検証が必要である。合わせて、ホール効果と磁気抵抗も詳細に測定し、大面積多結晶試料が単結晶試料と同等の性質を有することを明らかにした。 ②高輝度・円偏光発光素子:昨年度までに、高密度電流・高輝度発光をパルス電圧化で達成した。今年度は、発光の円偏光分光を行い、単結晶試料における円偏光発光を観測した。特に、歪み誘起と考えられる室温近傍(280K)における円偏光発光に世界で初めて成功し、新たなバレー機能の実現に成功した。 ③Valley機能に起因するゼーベック効果:これまでに、大面積なMoS2とWSe2においてゼーベック効果の観測と制御に成功していたが、今年度はWS2におけるゼーベック効果の観測と制御にも成功した。 以上のように、研究機関を通じて当初の目標を概ね実現し、新たなバレー機能の探索に成功した。
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