本年度は、Tiインプラントのモデルとして大気中で加熱して平滑化したTiO2(110)表面を原子スケール解析した。大気中など酸化雰囲気中でTi材表面に形成されるTiO2は、還元環境であるUHV中で作製される (1×1)表面より、実用インプラントにより近いモデルと期待できる。大気加熱表面は、(1×1)低速電子線回折(LEED)像を示す。これを根拠に、大気加熱(110)表面はUHV中で得られる(1×1)構造を持つという仮定の下、TiO2触媒や電極などのモデル表面として用いられてきた。しかし、そのナノ構造を解析した例は無い。NC-AFMで観察すると、0.33 nmの高さのステップと平滑なテラスで構成されていた。LEED像には(1×1)構造を示すシャープな回折点が観察されたが、テラス内はナノスケールで不定形だった。低速電子の脱出深さが約0.6 nmであることから、LEED像は表面第2層の原子配列を反映したものであり、表面第1層は非晶質であると結論した。一方、大気加熱(110)表面をO2流中で加熱すると、テラスには大きさ数10 nm、深さ0.33 nmのピットが出現した。テラス内には[001]方向に並んだ分子スケールの点像が観察され、LEED像には(2×1)スポットが出現した。(2×1)周期は(1×1)構造に配列したOH基、OOH基由来であり、大気加熱表面をO2中で加熱すると、(2×1)回折点を与えるほど(1×1)構造の領域が増加したことになる。擬似体液に4週間浸漬させてもO2加熱表面には生成せず、これは前年度の(1×1)表面に関する結果と一致する。リン酸カルシウムの生成はTiO2表面のナノ構造に敏感であり、常圧環境下でリン酸カルシウムの生成を制御できることを実証した。
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