研究課題/領域番号 |
16K13630
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
木田 徹也 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 教授 (70363421)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 量子ドット / ポリオキソ酸 / 光電子移動 |
研究実績の概要 |
コロイダル量子ドットは室温動作、波長可変という特徴を持つ単一光子源で大量に入手できる。これを基本材料とし、アニオン性のクラスターイオンであるポリオキソ酸と組み合わせて、光により情報を記録し、蛍光による読み出しが可能な、単一粒子を記録単位とする光メモリの構築を目指して検討を進めた。 本年度はまず量子ドットからポリオキソ酸への電子移動について詳細に調べた。量子ドットとしては安定性の高い酸化物に着目し検討を行ったところ、高沸点有機溶媒中での前駆体の熱分解・酸化によって、紫外線励起によって非常に強い青色蛍光を示すSnO2ナノ結晶(粒径:4 nm)の合成に成功した。SnO2の青色蛍光はポリオキソ酸の共存下では大きく減少し、蛍光寿命測定からも大きな蛍光寿命の減少が観測されたことから、SnO2からポリオキソ酸への電子移動が生じたことが明らかになった。一方で、紫外線によってポリオキソ酸を還元させておいた場合には、そのような電子移動は観測されなかった。これはポリオキソ酸の一電子還元体は電子アクセプターとしては機能しないことを示している。従って、ポリオキソ酸の酸化還元状態を制御することで、量子ドットからの蛍光を消光または消光されない状態とすることが可能であることがわかった。 次に可視光励起によって蛍光を示す量子ドットの合成を行った。ペロブスカイト型の量子ドットが容易に合成でき、さらには良好な蛍光量子収率を有することを見出した。現在、この材料の多色発光化、安定化、さらにポリオキソ酸との複合化による蛍光強度の変化について詳細な検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画どおりに、光照射下で量子ドットからポリオキソ酸への励起電子移動が生じることを見出しており、このような複合化による蛍光強度の制御にも成功している。
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今後の研究の推進方策 |
最適な蛍光消光-回復特性を有する量子ドットとポリ酸の組み合わせを見出して、溶液に紫外線または可視光を照射することでポリ酸を還元し、その際の蛍光の回復挙動を詳細に調べる。また、蛍光消光-回復のサイクル性能を調べ、安定的に蛍光消光・回復の繰り返し挙動を示す系を見出す。さらに、ポリ酸を電気化学的に還元し、その際の蛍光消光-回復特性を検討することで、ナノ結晶を用いた記録素子の固体化への展開も模索する。 シングル量子ドットメモリを実現するためには、個々の量子ドットからの蛍光とその強度の制御が可能かどうかを調査する必要が有る。そこで、単一分子蛍光計測を応用して、量子ドット-ポリ酸の系におけるシングル量子ドットからの蛍光測定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、多種類の量子ドットを合成し、分析を行うために、試薬と分析費用として30万円を計上していたが、早い段階で有望な量子ドットを絞り込むことができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越した金額は、高分解能TEM分析を外部に依頼するために利用する。また、高価な試薬の購入にも充てる。
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