研究課題/領域番号 |
16K13635
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
吉田 泰則 山形大学, 大学院理工学研究科, 研究員 (80601822)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | インクジェット / 金属ナノ粒子 / 光焼結 / ピエゾ素子 |
研究実績の概要 |
平成28年度の研究実績は、インクジェット印刷により金属ナノ粒子配線を形成する技術において、技術研究基盤の確立と、応用を見据えた研究活動の両面から進めることができたと総括できるものであった。具体的には、技術研究基盤として、インクジェットヘッドから吐出されるインク液滴の飛翔過程を詳細に観察できるシステムを確立できた。また、吐出状態の研究に必要となる、ダイアフラム変位測定の基盤を整えるための準備を進めることができた。光焼結については、白色連続光発生装置により、複数の基板材質に対する昇温速度の違いについて予備実験を行う段階に至った。応用を見据えた研究活動としては、我々がこれまでに開発した全方向インクジェット技術を活用し、厚さ約1mmのガラス板の端部を3次元的に乗り越えて、配線をインクジェット印刷することに初めて成功した。 現状では、平成28年度交付申請書に記載した研究目的に向かって順調に進展していると言えるが、一方で新たな課題も明らかになった。一つは、インクを吐出させる駆動力となる、ピエゾ素子の機械的振動を生みだすための電気的なパルスを、如何に低ノイズで高速かつ正確に入力するかという点である。一つは、ダイアフラム変位測定の精度の向上である。平成29年度は、これらに対する対策を施すことで、電気的なパルスがピエゾ素子の機械的振動を発生させ、それがインクを吐出させるという一連の吐出現象に対し、より詳細な学術的知見を得ることに加えて、本研究課題の目的である、白色光の直接照射によるインクの乾燥・焼結に向けて着実に進められるよう、研究を遂行していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究実施計画では、インクジェットヘッドに内蔵されたピエゾ素子により振動するダイアフラムの変位を測定することで、パルス波形に対する副生成液滴の出現状況を詳細に調べることを目標としていた。この調査は、3つの要素に大別できる。それは、パルス発生、振動計測、液滴観測、である。実際には、これらは並行して検討された。その結果、3要素のうちの2つ(パルス発生、振動計測)について新たな課題が見つかり、1つ(液滴観測)は問題なく実行できることが分かった。まず、パルス発生については、従来のパルス発生回路と、光ファイバー方式非接触変位計を合わせて使用することを試みた際、回路から発生した電気的なノイズが、装置の電源線を介して変位計にまで回り込み、信号がノイズに埋もれて計測できなかったことで、課題が存在することが明らかになった。次に、振動計測については、ダイアフラム変位の振幅が当初の想定よりも大幅に小さく(少なくとも1μm以下)、変位計自体の精度を向上させる必要があることが明らかになった。最後に、液滴観察については、高速度カメラを用いることで、時間分解能が非常に大きく(秒間100000フレーム)、かつ長距離(約5mm)に渡った液滴飛翔の様子を観測することに成功した。これにより、今後もこの液滴観測システムを活用できることが分かった。 一方、当初の計画では、平成29年度の実施項目として、白色スポット連続光の実験環境構築を挙げたが、これは平成28年度中に前倒して実験を行い、進展させることができた。また、応用を見据えた研究活動も進めることができた。 以上、平成28年度の本研究課題の進展状況をまとめると、年度始めの計画通りには進まなかったものの、要素によっては計画より進んだものもあり、おおむね順調に進展していると自己評価できるものであった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず、ノイズをできるだけ発生させないパルス発生回路構成の構築を行う。その後、1μm以下の微小な変位量を検出できる変位計を利用することで、ダイアフラムの振動計測環境を整える。それにより、液滴観測システムを活用して、パルス波形に対する副生成液滴の出現状況を詳細に調べる。それと同時に、白色スポット連続光の実験を進めつつ、応用を見据えた研究も進める。 パルス発生回路構成については、任意波形ファンクションジェネレータから出力された低電圧のパルス波形を、アンプにより振幅100V程度まで高速に増幅し、ピエゾ素子に入力するという構成に変更する。 変位計については、光ファイバー方式から、静電容量の変動を検知する方式に変更する。静電容量方式は、対象となる材質が導電性のあるものに限定されるが、変位検出の精度と速度に優位性がある方式である。これまでの光ファイバー方式変位計については、精密な測定に入る前の位置決め用等、補助的に利用する。 白色スポット連続光については、より効果的に照射できる条件を見出すことが重要である。そのためには、様々な照射光学系を実験することができる環境の構築が必要である。また、条件を見出した後は、応用時にそれを効果的に再現することのできる照射光学系の設計を行う。 これらの方策を順次または並行して実施することで、本研究課題の目的達成を推進していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度交付申請書では、単体で動作する装置としてまとめられた光ファイバー方式非接触変位計(ユニパルス・ATW-01)を購入するものとしていたが、その後の検討の結果、組み込み用の部品としての光ファイバープローブ(Philtec・D6-H2)に代替できることが分かり、こちらを購入した。これは、単体の装置としてはまとまっていないが、外部の電源装置や測定装置と適切に組み合わせて使用することにより、当初に予定していた装置と同等な機能を得ることができるものである。この変更により、当初は次年度以降に購入する予定としていた装置の購入時期を早めることができた一方で、研究課題の進捗状況に合わせる必要もあることから、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、特に光照射実験のための光学系構築に重点をおく予定である。一式の価格が大きくなることはほとんどないが、レンズ、スタンド、センサー類、駆動部品等の小物が多数必要となる。また、実際にインクジェット装置に組み込むためには、別途照射光学系を設計する必要もある。そのため、総額としては、平成29年度請求額程度の金額となることが見込まれる。
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