本研究では、単一分子レベルの感度で解析可能なナノ分光技術を開拓する。この目標達成に向けて、ナノスケールで構造を精密制御したギャップ素子からなる表面増強ラマン散乱(SERS)素子の作製技術を開発する。本素子では、フレキシブルな基板を利用することによりナノギャップ間をナノスケールで駆動させSERSの発生サイトとなるホットスポットを効率的に誘起させる技術を導入する。さらに本素子に電界効果型トランジスタとしての機能を付加することにより、SERS現象に新たな外部摂動として電荷(スピン)の注入や電子準位の変調を加えた手法から新奇SERS機構を探求する。本技術によりSERS発現機構の系統的・体系的な解明を進めると共に、その制御性を極限にまで向上させ、現行技術であるELISA法に対して桁違いの感度向上を達成する。研究期間の初年度では、デバイス作製プロセスを確立し、ナノギャップの構造的特徴と蛍光分子のSERS増強度の相関から、構造の有効性を明らかにした。その一方で、フレキシブルな基板としてポリエチレンアフタレートを利用したが、金属電極との密着性が弱くナノギャップの構造制御が困難である課題が生じた。そこで、電極材料として柔軟性に優れた多層グラフェン薄膜に着目し、本材料のSERS素子への応用について検討を進めた。効率的なSERS発生に向けて厚さ数十nmの多層グラフェン薄膜構造の形成技術確立が必須となる。そこで、数層グラフェンをテンプレートとした結晶成長技術を開拓した。グラフェンテンプレート上に層状で新しいグラフェンの形成が進行することを明らかにし、高結晶性多層グラフェン薄膜の合成に成功した。得られたシート抵抗は~300Ω/□程度で、単層グラフェンより優れた伝導度を有している。現在、本材料の更なる高結晶化および、ナノギャップ形成プロセスへの適合性について検討を進めている。
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