研究課題/領域番号 |
16K13640
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐藤 和久 大阪大学, 超高圧電子顕微鏡センター, 准教授 (70314424)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 低次元性 / 極限環境 / ナノ磁石 / 電子照射 / 規則合金 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、電子照射によるFeNi規則相形成のために、(1)Fe-Ni基ナノ結晶合金への電子照射による規則化促進の検討、(2)電子直接検出型CMOSカメラを用いた規則化過程の原子レベル観察、の2点について研究を行った。 まず(1)では、熱処理により既に一部規則化しているFeNiSiBPCuナノ結晶合金(粒径~30 nm)を超高圧電子顕微鏡(Hitachi H-3000)内で583 Kに加熱し、高エネルギー電子照射による構造変化の有無を調べた。その結果、1 MeV電子照射(ドースレート: 2.7×10^24 e/m^2s)では、照射後300 sでナノ結晶組織中に照射欠陥による微細なコントラストが現れ、時間とともに数密度が増加したが、900 s照射後においてもナノ結晶の粒径には変化は見られなかった。また、電子回折強度プロファイルに変化は見られなかった。以上の結果、Fe-Ni基ナノ結晶組織への583 Kで900 s以下の1 MeV電子照射は規則化や非晶質化を生じないことが判明した。 (2)では等比組成近傍のCo-Pt不規則合金ナノ粒子を用いて、超高圧電子顕微鏡(JEOL JEM-1000EES)内で573-583 Kにて1 MeV電子照射を行い、1/400 s (2.5 ms)の時間スケールでの規則格子c軸配向の変動を捉えた。本合金では、本来、L10型規則相が安定であり、照射促進規則化(radiation-enhanced ordering)が生じたものと考えられる。本年度は、高エネルギー電子照射による規則化とミリ秒での規則化過程観察を達成した。粒界や界面は過剰空孔や格子間原子のシンクとして働くと考えられるが、ナノ粒子においても照射誘起構造変化が観察されたことから、Fe-Ni基ナノ結晶において照射誘起構造変化が観察されなかった原因について、さらなる検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、高エネルギー電子照射による合金ナノ粒子の規則化とミリ秒での規則化過程観察を達成し、規則相形成手法と規則化過程観察手法を確立した。特に、ナノ粒子において照射促進規則化を明瞭に捉えることができたが、この結果は、粒界や界面に富むナノ結晶体においても、電子照射により規則化を促進できる可能性があることを示しており、重要な知見と言える。今年度は上記研究を優先したことと、成膜装置の改良・調整に時間を要したことから、成膜によるFeNi合金超薄膜・ナノ粒子の創製は次年度に繰り越すこととなった。また、現在のところ、電子照射によるFe-Ni合金の規則化には至っていないものの、全体として、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
成膜による新規FeNi合金超薄膜・ナノ粒子膜の作製、高エネルギー電子照射によるFe-Ni合金の規則化、大面積への照射、磁気特性評価の4点が次年度の課題であり、順次進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は、高エネルギー電子照射による合金ナノ粒子の規則化とミリ秒での規則化過程観察を達成し、規則相形成手法と規則化過程観察手法を確立した。これら予備実験には既存のFe-Ni基ナノ結晶合金と、常温で規則相が安定なCo-Pt合金ナノ粒子を用いた。また、成膜に用いる予定であった真空装置の改良・調整に時間を要したこともあり、本年度予定していた成膜によるFeNi合金超薄膜・ナノ粒子の創製着手が先送りとなり、成膜に要する物品費を次年度に繰り越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、4月からFeNi合金超薄膜・ナノ粒子の創製に着手し、当初計画に則って順次執行していく予定である。
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