研究課題/領域番号 |
16K13642
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
荻 崇 広島大学, 工学研究院, 准教授 (30508809)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ナノドッド / カーボンドット / 水熱合成法 / 発光材料 / 紫外線吸収 |
研究実績の概要 |
平成28年度は主に、1)BCNOナノドットの合成と特性評価、2)発光物質の分子構造の評価と発光原理の解明に従事した。詳細を以下に示す。 1)オートクレーブを用いて液状のBCNO蛍光体の合成について検討し、その構造解析、発光特性の評価及びポリマー化について検討を行った。ホウ酸、尿素、クエン酸及び溶媒に超純水、エタノール、アセトン、トルエン、1.4-ジオキサン及びN,N-ジメチルホルムアミドを用いて混合し攪拌したものを原料溶液とした。調製した原料溶液をオートクレーブ装置で加熱を行い、高温高圧下で試料を合成した。クエン酸と尿素を原料とした試料について発光強度の経時変化を測定した結果、発光強度は合成時間の経過とともに上昇し、最大値を取った後、低下することが分かった。そこで発光強度の異なる3つの試料について1H-NMR測定を行い、発光物質の構造解析を行った。この測定結果からクエン酸と尿素の反応過程においてクエン酸アミドの単量体では発光を示さないため、クエン酸アミドの会合体または一部縮合したものが発光していることを明らかにした。さらに興味深いことに、ホウ素を用いない場合でも高い発光を示すことがわかり、カーボンドットとして研究を進めることにした。 2)カーボンドットの生成過程での特性評価を行うことで、発光に起因するファクターの解明、および合成プロセスの省エネルギー化について検討を行った。カーボンドット合成過程においてサンプリングをして特性評価を行ったところ、高輝度なカーボンドット生成には、最適な反応時間があることを明らかにした。そして強い発光には、粒子径2 nm程度、かつNドープ構造(六員環中に窒素原子がドープされた構造)が関与していることを見出した。そして昇温速度を速くすることで、発光特性を維持したままで既往の研究の約10分の1の反応時間で合成することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
H28度の計画は、平成28年度は主に、1)BCNOナノドットの合成と特性評価、2)発光物質の分子構造の評価と発光原理の解明であったが、スイスのスイス連邦工科大学、シンガポールの南洋理工大学、およびインドネシアのバンドン工科大学との共同研究の効果もあり、上述する研究成果に加えて、マルチカラーで発光するカーボンドットの合成とその特性評価、異種金属の添加による発光効率の向上、ポリマーとの複合化による紫外線吸収フィルムの開発なども検討しており、研究は極めて順調に進んでいるため、予想以上に研究が進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、1)カーボンドットのポリマーとの複合化による紫外線吸収フィルムへの応用、2)近赤外吸収特性を持つカーボンドットの合成と生体バイオイメージングへの応用について研究を進めていく。詳細を以下に示す。 1)カーボンナノドットは、水および有機溶剤中に分散可能であるため、ポリマー(ポリビニルアルコール、ポリイミドなど)との混合により発光、および紫外赤外遮断フィルムの作製を行う。BCNOナノドットコンポジットポリマーの作製は、濃度調整されたBCNOナノドット分散液を作製し、目的のモノマー(またはポリマー)と混合し、ドクターブレード、スピンコーティングなどにより製膜する。ポリマーメンブレンの作製については、これまでの操作条件を参考にする。合成されたカーボンナノドットコンポジットポリマーについては、可視光透過率および吸収率を紫外・可視・近赤外分光装置、発光特性をフォトルミネッセンス測定装置により測定する。さらにポリマー中でのカーボンドットの直接合成についても検討する。これにより、透明フィルム中にカーボンドットが均一で高度に分散した紫外線吸収材料の合成を目指す。さらに、耐久性や耐水性などの試験も実施する。一部の研究は、スイス連邦工科大学と共同で研究を進める。 2) 本研究でクエン酸と尿素を原料としてマイクロ波加熱法により合成したカーボンドットは、これまで報告されているカーボンドットと異なり、近赤外領域(950nm)で非常に高い吸収率を持つことが明らかとなった。この性能は、血液中でのがん細胞のより正確な検出に利用できる可能性を秘めている。そこで、本年度は、まず今回は開発したカーボンドットの近赤外吸収特性の機構を明確にし、さらにその性能の制御について取り組む。生体イメージングの実験は、申請者と交流の深いシンガポールの南洋理工大学、およびインドネシアのバンドン工科大学にて実験および評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度、ここまで予想以上に研究が進んでおり、次年度に合成した粒子の分析・評価のための費用(依頼分析)が予定よりも必要であることが予想されたため、粒子合成実験などに使用される消耗品費などを節約した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には、合成した粒子およびその複合体の詳細な分析(外部依頼)のために使用する予定である。また、1年目に共同研究を実施したスイス連邦工科大学やバンドン工科大学などへの出張旅費としても使用を検討している。
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