研究課題/領域番号 |
16K13647
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
笹木 敬司 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (00183822)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | キラリティー測定 / 分子センシング / 局在プラズモン |
研究実績の概要 |
生化学的特性が異なる右手型・左手型の立体異性体の識別、すなわち、分子のキラリティー識別は、医薬品・農薬・香料の研究開発や光機能デバイスへの応用研究等、様々な産業分野において重要な研究課題となっている。これまで、立体異性体の分析には左円偏光と右円偏光の吸収差や発光強度差を解析する円二色性測定が広く用いられているが、計測対象は多数のキラル分子の集団平均であり、個々の分子のキラリティーを識別し選別することは不可能である。光が分子の形状を認識する感度が極めて低い原因は、分子の大きさ(ナノメートルサイズ)と光のモード広がり(回折限界としてサブマイクロメートル)の大幅なサイズミスマッチによるものである。本研究では、光の「大きさ」(電場分布拡がり)を分子・分子集合体と同程度のナノメートルサイズまで小さくすると共に、スピン角運動量・軌道角運動量を制御して光の「形」(電場振幅・位相分布)をシングルナノスケールでシェーピングする光ナノ成形技術により、光ナノ形状とマッチングする立体構造の分子・分子集合体(キラル分子、液晶分子等)を単一分子レベルで超高感度に計測する全く新しい原理に基づく光分子認識センシングを実現する。すなわち、分子が他の分子の大きさや形などを識別して選択的に反応や結合する「分子認識」と同様に、ナノ成形光により単一分子・分子集合体の形状を識別するセンシングシステムの実現に挑戦する。また、ナノキラル光の運動量・角運動量の転写によって発生する放射圧の場においてキラル分子・分子集合体を合成・形成することにより、光反応性の差異および放射圧の作用による選択的なナノ構造形成プロセスの実現を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金属2次元ナノギャップ構造に光渦ビームを照射したときの3次元電磁界分布を高速・高精度に数値計算する新しいシミュレーション解析手法を開発した。本手法を用いて、2次元ギャップ構造の形状・対称性・サイズをパラメータとして局在プラズモン場の3次元振幅・位相分布をシミュレーションし、電場分布の局在性・増強度・多重極特性・偏光回転特性など光子の形状を解析して最適な金属ナノ構造体をデザインした。また、光渦ビームの周波数・偏光・方位角モード次数・径方向モード次数・ビーム広がりを設定して局在光の3次元形状を数値解析した。次に、2次元ナノギャップ内にキラルな構造を持つ単一分子・単一ナノ構造体を配置した系について、ナノ局在場分布への影響、プラズモン共鳴スペクトルの変化・共鳴周波数シフト、散乱光の偏向・光渦特性等の解析を行い、分子の大きさや構造のキラリティー依存性について詳細に考察した。これらの結果に基づき、キラリティー形状の計測感度について定量的に解析するとともに、光分子認識センシングとして最適なシステムを設計している。さらに、ナノ光渦のスピン角運動量・軌道角運動量を変化させたときのプラズモン応答特性を解析し、高次のキラル構造を識別する能力を探求している。
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今後の研究の推進方策 |
電子線描画装置を用いたリソグラフィー技術により、金2次元ナノギャップ構造体を設計に基づいて作製する。コンピュータ制御空間位相変調器を用いて半導体レーザーのガウス光を光渦ビームにモード変換し、波長板で偏光を調整して金ナノ構造体に集光するシステムを構築する。本システムを用いて、キラル構造を持つ分子・分子集合体(エナンチオマー、液晶分子、DNA)の増強円二色性スペクトル測定、プラズモン共鳴スペクトル測定、および光渦の軌道角運動量の変換特性解析を行い、シミュレーション解析と比較・考察して、光分子認識センシングの性能について評価する。また、金属ナノ構造体のデザイン、光渦ビーム照射の条件の最適化を行い、極限の検出感度を達成することにより、単一分子・単一ナノ構造体のキラル認識センシング技術を実現する。光照射で立体構造が変化するフィトクロミック分子を、開発した分子認識センシングシステムで観測し、単一分子のキラル構造が変化する様子をダイナミックに解析するデモンストレーション実験に挑戦する。また、ナノキラル光の場においてキラル分子・分子集合体を合成・形成することにより、光反応性の差異および放射圧の作用による選択的な構造形成プロセスの実現に挑戦する。
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次年度使用額が生じた理由 |
現有のシミュレーション解析システムのプログラムを高度化することで、金属2次元ナノギャップ構造に光渦ビームを照射したときの3次元電磁界分布を高速・高精度に数値計算することが実現できたため、計算機システムに関連して計上していた経費が不要となった。さらに、その他の経費についても節減・効率化により未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
光渦ビーム形成に必要な光学部品・制御電子部品や円二色性スペクトル測定用の波長板等を準備し、単一分子キラリティーセンシングシステムを早期に完成する。また、本年度に光電場分布や偏光特性を解析して最適設計した金属ナノ構造体を高精度に作製するために、初期計画より多く必要になると予測される、電子線描画装置を用いたリソグラフィーなどナノ微細加工装置の使用に集中的に予算を使用する計画である。
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備考 |
研究室HP http://optsys.es.hokudai.ac.jp/
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