本研究では、ポアを通るイオン電流計測を基盤とする1粒子形状識別法を創成することを目的とした。そこで、まず低アスペクト比ポアの上部にPtサラウンド電極を組み込んだサラウンドゲート型マイクロポアを作製した。そして当該電極と1個の銀/銀塩化銀を用いて、ポアを通るイオン電流計測による1粒子検出を試みた。検出対象として、カルボキシル基修飾ポリスチレン微粒子を用い、バッファ中にて1MHzのサンプリングレートでイオン電流計測を行ったところ、バッファと接するPt電極表面積が小さい場合、電極/液体界面での電気化学的な反応速度が律速となり、微粒子は検出されなかった。そこで、Pt電極をポアの周囲に500μm以上大きく作り、測定を実施したところ、単一微粒子がポアを通過したことを示唆するスパイク状の電流シグナルが観測された。シグナル波形は従来の遠方に配置された電極対を用いる方法で得られるものと比べると、波形形状は類似しているものの、波幅や波高が大きくことなるものが得られた。これは、ポア直近に電極を配置することで、アクセス抵抗の寄与が低減できたことを示唆している。 さらに、低アスペクト比ポアセンサの粒子形状測定能を調べるために、特徴的な形状を有する何種類かの細菌について、1細胞検出を実施した。その結果、ポア直径が細菌に比して大きい場合は、イオン電流シグナルに細菌形状は反映されなかったのに対し、細菌の大きさに近いサイズのポアを用いた場合は、電流シグナルには明確に細菌形状の影響が現れた。この測定結果はイオン電流シミュレーション計算とも一致したことから、低アスペクト比ポアセンサによって、確かに粒子形状測定が可能であることが明らかとなった。
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