研究期間全体を通じて、「非平衡ゆらぎ」に潜む非線形特性を活用して、cm-mmのレベルで滑らかな仕事をさせることが可能であるような、運動機関の創出を目指した研究を行なった。具体的には、1)直流電場で働く回転モータ・流体ポンプ、2)光照射による物体運動制御・流体ポンプ、3)常温での化学→運動エネルギー変換システム、の研究課題について、いずれも、当初の予想を上回る、新規な運動系の構築に成功している。本年度には、これまでの研究を通して、レーザーを水溶液に照射することにより、レーザの光軸方向に流体運動を起こすことが可能であることが明らかになりつつあったので、その課題を重点的に取り組んだ。金ナノ粒子が溶解した水溶液の、気水界面に対して平行にレーザ光を照射すると、光の進行方向(正の方向)に流体運動が生じることを明らかにした。レーザの照射角度を変えて、気水界面で全反射が生じる条件にすると、光源方向(負の方向)に流体運動が生じることが分かった。すなわち、照射角度を変えることにより、流体運動の方向性を逆転できることを発見した。このような流体運動の運動方向の反転現象のメカニズムを明らかにするために、Navier-Stokes方程式を援用してシミュレーションを行い、実験結果を理論的に再現することができている。すなわち、熱Marangoni効果が、運動をひき起こしていることを解明している。更に重要な実験結果として、固形物体を気水界面に浮遊させ、レーザを照射すると、正と負の方向に、進行方向をスイチングできることも明らかにしている。
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