本研究は,Bi-2212固有ジョセフソン接合のテラヘルツ波応答がテラヘルツ波フォトンによる対破壊に由来する可能性があることに着目し,予想される非常に高速で高感度な応答性を活用して液体窒素冷却で動作可能なテラヘルツ波検出用ホットエレクトロンボロメータへの応用に向けた基礎的な知見を得ることを目的としている。29年度は28年度に得ていた有機金属分解法(MOD法)によるSTO(100)基板上へのBi-2212超薄膜をテラヘルツ波ボロメータとして応用するため,まずSTO基板のテラヘルツ波特性をフェムト秒レーザー励起テラヘルツ分光法によって評価した。その結果,STOはテラヘルツ波帯での損失が大きく基板として不適であることが明らかになった。そこで新しい基板材料を探索し,STOよりもBi-2212との整合性に優れ,テラヘルツ波帯の損失の少ない誘電体材料としてNGO(001)を見出し,MOD法によるBi-2212/NGO(001)超薄膜の作製を行った。NGOの成分であるGaがMOD法の加熱プロセスによって膜中に拡散しBi-2212の超伝導性が失われるため,Bi-2212超薄膜をセルフバッファとして用いることにより超伝導転移温度70KのBi-2212超薄膜を得ることに成功した。超伝導転移温度Tcが最適ドープ状態の約90Kに比べて低いことについては,Ga拡散が検出限界以下であったこと,X線回折測定の結果が良好な結晶性を示したことから,酸素ドープ量の不足に伴うキャリア濃度の低下が主な原因であると判断した。今後,酸素雰囲気中アニールによりキャリア濃度を最適化することにより液体窒素温度(77K)でテラヘルツ波ボロメータとして動作可能なBi-2212超薄膜材料となることが期待される。
|