研究課題/領域番号 |
16K13664
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
岡本 佳比古 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (90435636)
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研究分担者 |
山川 洋一 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (60750312)
山影 相 名古屋大学, 工学研究科, 特任助教 (90750290)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 熱電変換材料 / ディラック電子系 / カルシウム化合物 / 逆ペロフスカイト / ラインノード |
研究実績の概要 |
熱電変換は伝導電子の熱・エントロピー輸送を用いる冷却・発電であり、無冷媒の冷凍技術や廃熱発電として幅広い用途での応用が期待されている。本課題の目的は、ディラック電子をもつCa化合物において集中的に新材料開拓を行うことにより、高性能な熱電変換材料を発見することにある。H28年度において、(a) 逆ペロフスカイト型酸化物Ca3AO (A = Pb, Sn)が高い熱電変換性能を示すことを明らかにした。(b) 新しいタイプのディラック電子系であるラインノードディラック半金属CaAgAsおよびCaAgPの多結晶試料の合成に成功し、ラインノード系の輸送特性を初めて明らかにした。 (a) Ca3AOは立方晶逆ペロフスカイト型の結晶構造をとり、ディラック電子をもつことが理論計算により指摘された物質である。この結果を熱電変換材料の視点から眺めると、スピン軌道相互作用により小さなギャップが開いたディラック点がマルチバレー構造を形成することから、大きな熱起電力を実現できる可能性がある。本課題では、これまでほとんど行われていなかったCa3AO多結晶試料の合成に成功し、Ca3SnOが、金属的な電気伝導を示しながら100 μV K-1の大きな熱起電力を示すことを明らかにした。この結果は、Ca3AOが熱電変換材料として高いポテンシャルを有していることを示す。 (b) CaAgX (X = As, P)は、Cd3As2やNa3Biに代表される通常のディラック半金属と異なり、価電子帯と伝導帯の交差点が波数空間の線上に現れるラインノードディラック半金属であることが研究代表者・分担者らにより見出された物質である。本課題では、CaAgAsおよびCaAgP多結晶試料の合成に初めて成功した。得られた多結晶試料を用いたホール抵抗測定の結果、両試料がディラック点の存在を反映して低いキャリア濃度をもつことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
H28年度において、ディラック電子系として知られる逆ペロフスカイト型酸化物Ca3AOが高い熱電変換特性を示すことを明らかにすることができた。Ca3AOは、第一ブリルアンゾーン内に6つ存在するディラック点において、Sn 5pまたはPb 6p軌道に起因する強いスピン軌道相互作用により小さなスピン軌道ギャップが開いたマルチバレー構造をもつ物質である。H28年度に得られた実験結果は、ディラック電子系が高性能な熱電変換材料の候補物質であることを示す。 新しいタイプのディラック電子系であるラインノードディラック半金属のCaAgXの多結晶試料の合成に成功した。価電子帯と伝導帯が波数空間の線上で交差したラインノードディラック半金属では、通常のディラック電子系とは全く異なる物性が現れると理論的に予想されている。CaAgXは、他のラインノードディラック半金属候補物質と異なり、フェルミエネルギーにおいてラインノードディラック点以外の通常のバンドの寄与が存在しないため、ラインノードを反映した輸送特性を研究するうえで理想的な舞台といえる。本成果により、ラインノード半金属の物性解明が顕著に進むことが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
逆ペロフスカイト酸化物Ca3AOの熱電変換性能を、元素置換により最適化する。Ca3SnOとCa3PbOのSn・Pbサイトに対して、SbやBi置換により電子ドープが、In置換によりホールドープができる。これらの元素置換を系統的に行った多結晶試料を合成し、熱電変換性能を評価する。現在、Ca3PbOのPbサイトの最大20%を、Bi置換することに成功している。 ラインノードディラック電子系CaAgXの熱電変換性能を解明する。H28年度に合成した多結晶試料に加え、H29年度にCaAgX単結晶試料を合成し、両試料を用いて熱電変換性能の評価を行う。現在、熱電変換物性を測定可能な数mmの大きさのCaAgAs単結晶試料の合成に成功している。得られた実験結果と、ラインノード系の熱電応答の理論計算の結果を組み合わせることで、ラインノード系においてより高い熱電性能を得るための方針を確立する。並行して、元素置換によりCaAgX多結晶試料のキャリア数制御を行い、熱電変換性能を最適化する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題で使用する消耗品・低額備品は、研究代表者が代表者を務める基盤研究(B) 16H03848や、各種財団の研究助成に関する研究テーマと共通に使用するものが多く、当該科研費や研究助成金を利用して購入したため、本萌芽研究の消耗品の購入費が少なくなった。また、旅費については当初予定していた研究会への参加を取りやめたことにより、当初の見込みよりも実支出額が小さくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額を利用して、グローブボックスの露点計や小型電気炉など本課題を今後推進するために必要な少額備品を購入する。次年度は課題に共通点を含む各種財団の研究助成期間の終了後となるため、消耗品費は当科研費で支払う。また、次年度は研究期間の最終年度であるため、積極的に研究会等に参加し、成果発表を行う。
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