29年年度は、ルテニウム錯体の電気特性計測と金微粒子を導入してプラズモン励起により生成したホットエレクトロンをルテニウム錯体の分子軌道へ導く研究を行った。 ルテニウム錯体の電気特性は28年度中に微粒子架橋デバイスを用いた測定から分子準位を通した共鳴トンネリングであることを明らかにしていた。29年度は、この結果を確かなものにするため、表面自己組織化単分子膜による界面制御を徹底して行い、理論解析に耐える接合を形成することに成功し、疎結合分子準位による共鳴トンネル伝導を確立した。 この知見をもとに、金微粒子のプラズモン励起により生成した短寿命ホットエレクトロンを分子準位へ取り出し、長寿命の電荷分離状態を形成することを目標に研究を行った。基板には、NbドープしたTiO2基板を用いた。電荷分離状態は、周波数変調方式の走査ケルビンプローブ顕微鏡を用いて確認した。まず、TiO2の上に、金微粒子を直接置いて、532nmのレーザー光を照射した。このとき、Au微粒子上の帯電は観測できたが、対電荷はTiO2表面上に広く拡散してしまい、明確な画像として観測することはできなかった。次に、ルテニウム錯体N719分子の自己組織化単分子(SAM)膜をTiO2上に形成し、その上に金微粒子を置いた試料について調べた。すると、金微粒子上の電荷と同時に、反対符号の電荷が金微粒子の周りのN719自己組織化膜上に局在して観測された。この結果は、プラズモン励起により生じたホットエレクトロンをN719分子上に捕集することに成功したといえ、光電荷分離によるナノスケール光電池への道を開くものである。
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