研究課題/領域番号 |
16K13668
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
中島 伸夫 広島大学, 理学研究科, 准教授 (90302017)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 酸素八面体 / 反強的歪み |
研究実績の概要 |
チタン酸ストロンチウム(以下、STO)は、全温度範囲にわたって安定な常誘電体である。近年、「STO 板状結晶を曲げると強誘電性が現れる」という報告が相次いでいる。しかし、期待される電気分極は極めて小さいため、バルク単結晶を曲げて現れる強誘電性の真偽は定かでない。申請者らは、自発的に丸まって曲げ応力が加わっている「100 nm STO/20 μmホウケイ酸ガラス薄膜」のX線吸収分光測定を行った。その結果、分極発現を示す明確なスペクトル変化を発見した。本研究では、成膜条件(基板・膜厚など)と曲がり具合(曲率)を押さえながら、曲げ応力による強誘電性を明らかにする。安定な基板材料として広く用いられているSTO に、さらに強誘電性が付加されれば、新たな物質設計の展開が期待される。 初年度は、単結晶試料の曲げ応力による強誘電性の真偽をX線吸収分光による調べた結果を論文報告した(インパクト・ファクター=2.2)。多重散乱理論に基づく理論計算を基に、実験を再現する格子変形のモデルを考察したところ、単結晶で報告されている「曲げて現れる強誘電性」は、曲げることによって生じる酸素欠損が主因であると結論した。さらに、一軸応力下でのスペクトル変化についても投稿済みである。現在、薄膜試料を用いた測定結果を投稿準備中である。 全体を通して、STO内部の酸素八面体(TiO6)の回転が巨大な強誘電性の出現を妨げているとするモデルでどの結果も統一的に説明可能であると考えている。研究を継続して、この解釈を多角的に検証する予定でいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、予定していた薄膜試料のX線吸収分光測定とそのデータ解析を行うことができた。また、この結果に後押しされて、これまでの研究も論文出版という形で成果に残すことができた。初年度としては極めて順調に推移している。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究で、STO内部の酸素八面体の回転歪みが、この物質の強誘電性の鍵を握っていることが明らかになった。今後は、薄膜や複合ペロブスカイト酸化物も研究対象に広げ、この八面体歪みの動的制御を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費が予定より増え、その分旅費の見直しを行うなどしたため、若干計画との差が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の旅費として活用する。
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