研究課題
チタン酸ストロンチウム(以下、STO)は、全温度範囲にわたって安定な常誘電体である。近年、「STO板状結晶を曲げると強誘電性が現れる」という報告が高インパクト雑誌にも掲載されている。しかしながら、期待される電気分極は極めて小さいため、バルク単結晶での強誘電性の真偽は定かでない。申請者は、自発的に丸まって曲げ応力が加わっている「100 nm STO/20 μmホウケイ酸ガラス薄膜」のX線吸収分光測定を行ったところ、強誘電体の典型物質として最も一般的なチタン酸バリウムに匹敵する大きな分極発現を示すスペクトル変化を発見した。本研究では、成膜条件と曲がり具合をパラメーターにして、曲げ応力による強誘電性の発現機構を段階的に進めてきた。安定な基板材料であるSTOに、さらに強誘電性が付加されれば、物質設計の新展開が期待される。初年度に、1通の査読付き論文の投稿に続けて、次年度は2通目の論文発表も行った。これら2通の論文は、STO単結晶に対し、曲げ応力や一軸応力といった外部からの構造歪みを導入することで、先に薄膜で発見していた自発分極増大と類似の結果を期待して実験的な取り組みを行ったものである。その結果、酸素欠損によってもたらされる原子スケールでの局所的な対称性の低下が双極子モーメントを生じさせはするものの、それらが長距離秩序によって巨視的な自発分極の発現に繋がるものではないことが分かった。最終年度は、酸素欠損による対称性低下の直接的な証拠を明らかにするべく、蒸着基板の違いにより面内応力と面直応力の2種類のSTOエピタキシャル薄膜を用意し、これまでと同様のチタンK吸収スペクトル測定に加え、軟X線領域の酸素K吸収スペクトルの測定にも挑戦した。この結果を、多重散乱理論に基づく理論計算とともに解析中である。
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