研究課題/領域番号 |
16K13669
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
古部 昭広 徳島大学, 大学院理工学研究部, 教授 (30357933)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 有機太陽電池 / 励起子分裂 / シングレットフィッション / 過渡吸収分光 / 電荷分離 / 有機分子性結晶 / フェムト秒分光 / 反応ダイナミクス |
研究実績の概要 |
古くから研究されている分子間の光誘起電子移動過程は、太陽エネルギー変換への応用の観点で重要である。最近注目されている有機固体における一重項励起子の分裂過程(三重項励起子を二つ生成)が、内部量子効率200%の太陽電池へ応用可能かどうか、フェムト秒およびナノ秒のレーザー過渡吸収分光に基づく反応素過程の解明から検証することを目的としている。この様な原理検証が成功すれば、デバイス開発の研究者に大きな弾みを与え、次世代太陽電池デバイスの研究開発の新たなブームを生み出す可能性があると期待している。 該当年度の実施計画は、過渡吸収分光法により一重項励起子分裂過程の定量評価を行うことであった。これまでに、テトラセン誘導体であるルブレンに着目し、単結晶試料における励起子フィッションが10psの時定数で起こることを強く示唆する結果を得ていた。しかし、ルブレン結晶においては、三重項励起子のエネルギーが低く(一重項励起子エネルギーの半分よりさらに小さい)、三重項励起子の電荷分離に必要なドライビングフォースが十分に得られないという問題が生じた。 そこで、ルブレンに代わる新たな有機分子結晶として、数種のペロピレン置換体を検討した。これまでの報告での計算結果で、三重項励起子のエネルギーが一重項励起子エネルギーの半分となることが知られている。しかしながら、過渡吸収分光測定の結果、最低励起一重項状態からの励起子分裂過程の観測を行うことはできなかった。一方、高位一重項励起状態からの励起子分裂は観測することには成功した。定常吸収および発光スペクトルの解析から、結晶中における一重項励起子の安定化が、励起子分裂を妨げていることが分かった。この知見に関して学術論文に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、テトラセン誘導体であるルブレンに着目し、単結晶試料における励起子フィッションが10psの時定数で起こることを強く示唆する結果を得ていた。しかし、ルブレン結晶においては、三重項励起子のエネルギーが低く(一重項励起子エネルギーの半分よりさらに小さい)、三重項励起子の電荷分離(フラーレンなどの電子アクセプターへの電子移動)に必要なドライビングフォースが十分に得られないという問題が生じた。 そこで、ルブレンに代わる新たな有機分子結晶として、数種のペロピレン置換体の結晶を測定した。これまでの報告での計算結果で、三重項励起子のエネルギーが一重項励起子エネルギーの半分となることが知られている。フェムト秒およびナノ秒の過渡吸収分光測定により一重項励起子の吸収スペクトルの時間発展を詳細に評価した。その結果、最低励起一重項状態から三重項励起子を生成する励起子分裂過程の観測を行うことはできなかった。一方、励起子-励起子消滅過程によって生成する高位一重項励起状態からの励起子分裂は、三重項励起子の生成として観測することに成功した。定常吸収および発光スペクトルの解析から、結晶中における最低励起一重項状態の安定化が、励起子分裂を妨げていることが分かった。このような詳細な励起子ダイナミクスの知見に関して学術論文に発表した。 量子収率200%の電荷分離過程を捉えるという目標にはまだ遠いが、適切な分子を選択するための詳細な知見が得られたという観点から順調な進展と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、有機固体における一重項励起子の分裂過程が、内部量子効率200%の太陽電池へ応用可能かどうか、フェムト秒およびナノ秒のレーザー過渡吸収分光に基づく反応素過程の解明から検証することを目的とし研究を推進する。一重項励起子の分裂過程を示す分子としてこれまでに検討しているルブレンを中心に実験を続ける。ルブレンの三重項励起子から電子を受け取ることができるアクセプター分子として、既に検討し電荷分離効率が低いことが分かっているフラーレン類に代わるものを新たな測定対象とする。半導体ナノ粒子やバンドギャップの小さい低次元ナノ材料を候補とする。ルブレンの結晶性を保ちつつ、アクセプター材料との混合固体試料を作製するため、スピンコート法や蒸着法の成膜条件を様々に変化させ、最適条件を探索する。三重項励起子の過渡吸収信号の減衰、および電荷分離状態の生成の速度定数を評価し、速度論的に電荷分離収率を決定する。以上のような実験から、200%内部量子効率の太陽電池が実現可能であるかどうかの原理検証を行う。
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