研究課題/領域番号 |
16K13670
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
関口 康爾 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (00525579)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スピン波 / マグノン / スピン流 / マグノニクス |
研究実績の概要 |
フェーズドアレイ動作に不可欠な、二次元平面内での等方的なスピン波伝搬を確認するために、超高真空スパッタ装置を使用して面内磁化膜PyおよびCoFeBを含む金属多層膜試料を作製した。電気プローバーの電磁石によって磁場を膜面垂直方向に印加し、磁化を垂直に立てた状態を作りだし、スピン波伝搬の高速電気検出をすることで金属系におけるスピン波伝搬モードを観測することに成功した。伝搬速度は面内伝搬モードに比べると小さいものの、金属材料でも等方的伝搬を確保できることが分かった。 また、平面でのスピン波伝搬による波面を調べるため、長距離伝搬が可能となる単結晶鉄を用いてスピン波の波面を調べた。その結果、エッジ効果による多重散乱によって波面が変調を受けることが明らかになった。ピラー構造だけでなく、試料境界を利用した波面制御もできることがわかった。ただし、磁性多層膜からなるナノピラーをシリコン基板上に複数個並べて微細加工しているが、全てがスピントルク発振する段階には至っていない。 一方、ガーネットを使用することで、多入力(多ピラー状態)スピン波励起を模した実験をすることができた。これら多入力での入力ディレイをつけることで出力値での重ね合わせ状態を制御することができ、論理回路OR,AND,NAND,NORを実現できることを証明できた。フェーズドアレイ型動作によるマグノン伝搬制御に関する、基礎実験をすることができた。これらはCMOS回路とは異なり、単一素子でNAND回路を実現する長所を持っていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
挑戦課題のフェーズドアレイ動作にはスピントルク発振器と、複数個の発振器同時動作が重要である。現在、エンドポイントディテクターを有していない環境で試料作製をしているため、ピラー構造の削りだしや埋め戻し努力に傾注せざるを得ず、複数個のスピントルク発振群の同時発信の検出には至っていない。 一方で外部回路としてのパルス入力などの電気・分光測定系は順調に開発が終了し、ガーネットを使用した回路などでは高周波ディレイ入力をおこない波動原理による論理演算を行うことができた。さらに構造境界でのスピン波反射を活用すると複数個の発振器による同時励起と類似の効果を得ることが、今回新たにわかった。 一方で、研究代表者の異動により装置群の停止、および再立ち上げという事案が発生した。そのため、上記の理由も併せて、概ね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度と同様の課題であるが、磁性多層膜からなるナノピラーをシリコン基板上に複数個並べて微細加工し、全てがスピントルク発振するように微細加工作製の歩留まりを向上させていく。現在はCo, CoFeB, Ptなどのスパッタターゲットを整備でき、垂直磁化膜を使ったナノピラー構造の作製を行っているため、今後はスピントルク発振器アレイにおける発振ディレイ制御に挑戦する。 一方、スピントルク発振を除いては、ディレイ制御と構造境界における反射を利用したスピン波制御など順調に推移しているため、波面制御の観点からこれらの新しい知見を取り入れた研究を進めていく。構造境界を積極的に活用して、たとえばアンチドットのような形で研究を進めていく。エンドポイントがない状況でのナノピラー構造制御よりも、アンチドット制御であれば試料作製難易度は格段に低くなり、スピン波二次元放射実験に関する制御性・歩留まりが改善すると考えられる。これらによって、スピントルクと同様のフェーズドアレイ型動作ができるかどうかを探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の人事異動により所属研究機関が変更になった。これに伴い、最終年度内から次の年度にかけて、装置の一時停止・移転・再立ち上げという期間を必要とすることになった。 研究期間を当初計画の2年から3年へと変更し、次年度へと使用額を繰り越すことになった。予算の使用計画は、研究に必要な物品と装置群は装備済みなので、装置の立ち上げ、メンテナンス、消耗品購入に充てる計画である。
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