H29年度は,下記の2項目を実施した. 1.タイプIII型不凍タンパク質(AFP-III)の蛍光観察:蛍光ラベル化率が10%程度であるため,蛍光色素濃度が薄くても測定可能な厚みが100ミクロンの蛍光観察用チャンバーを作製して,氷結晶の成長に及ぼす蛍光ラベル化AFP-III (F-AFP-III)の効果を調べた.その結果,F-AFP-IIIはプリズム面に特異的に吸着するが,ベーサル面にはほとんど吸着しないことを見出した.そのため,過冷却度が小さな場合には,純粋な氷の平衡形は薄い円板であるが,F-AFP-IIIがプリズム面に吸着しその成長を抑制するために,薄い6角板状となった.一方,過冷却度が大きな場合には,純粋な氷の場合には丸い樹枝状の形状になるが,F-AFP-IIIがプリズム面に吸着して成長を阻害するため,大きく間隔が空いた細い樹枝状になった.潜熱の除去がより効率的になることより,F-AFP-IIIは氷結晶のa軸方向への成長速度を促進させた.また,F-AFP-IIIはc軸方向への成長速度も顕著に促進させた.この結果は,F-AFP-IIIがベーサル面上のステップレッジに吸着することにより2次元核形成速度を増大させたと考えると説明できる. 2.珪藻由来不凍タンパク質(fc-AFP)の蛍光観察:蛍光ラベル化率が100%であるため,当研究室で従来用いて来た氷自由成長観察チャンバーを用いて,氷結晶の成長に及ぼす蛍光ラベル化fc-AFP (F-fc-AFP)の効果を調べた.F-fc-AFPはF-AFP-IIIとは異なり,プリズム面およびベーサル面の両方に吸着することを見出した.その結果,氷結晶のa軸方向への成長はF-AFP-IIIと同様の効果をもたらしたが,c軸方向への成長は過冷却度によらず常に抑制されることがわかった.
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