本研究では、パイロクロア型イリジウム酸化物を用いて、all-in-all-outと呼ばれる反強磁性秩相の磁気ドメイン境界において予想されている、トポロジカル金属状態の制御法の確立と特性解明を目指している。前年度までの成果では、Tb2Ir2O7/Eu2Ir2O7のヘテロ界面における磁壁伝導の観測と磁壁の生成・消滅制御を達成した。 本年度は、磁壁伝導制御の機構を解明するため、Tb2Ir2O7薄膜のall-in-all-out磁気ドメインスイッチングを2つの手法を用いて観測した。1つめは走査SQUID顕微鏡を用い、Tb2IrO7薄膜の微小な磁気モーメントを実空間でマッピングすることにより、ドメインの安定化機構を推察した。SQUID顕微鏡ではおよそ30K以下でドメインが観察されたため、ドメインは120K以下で磁気秩序を示すIrのモーメントではなくTbのモーメントである。しかしながら、50Kまで昇温した後降温しても全く同じ磁気ドメイン形状を示したため、TbのモーメントはIrのモーメントからの交換相互作用を強く受け磁気秩序が決まっていることが明らかとなった。 磁気ドメインを観測する2つ目の手法として磁気抵抗の線形成分の符号を用いた。磁気抵抗の線形成分の符号はall-in-all-out磁気ドメインを表していることがわかっており、温度や磁場の履歴によってIrモーメントのドメインを判別できる。結果としてIrモーメントは非常に小さく磁場によって直接ドメイン反転はできないが、Tbモーメントの磁気ドメインの反転を通じてドメイン反転が可能であることが示された。以上の成果により、トポロジカル金属層と予測されるパイロクロア型Ir酸化物のドメイン壁の作製手法および制御手法を確立できた。
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