本研究では、原子単位でのドーパント制御技術の確立を目指して、電気化学ポテンシャルを利用したナノ構造体からの不純物原子の取り出し・注入に関する研究を行った。平成28年度には、モデル材料として硫化銀(Ag2+δS)を用いて本提案の原理実証ならびに実験手法の確立に関する実験を行った。その結果、硫化銀ナノドットに対向させたプローブ針の電圧をパラメーターとすることで、硫化銀ナノドットから析出する不純物原子数の制御が原子層単位で可能であることを明らかにした。なお、硫化銀では、硫黄原子とイオン結合していない過剰な銀原子(δ成分)が不純物として働き、その量に依存して抵抗値が変化するものと考えられている。平成29年度はこれらの成果を基に、不純物原子の析出に伴う硫化銀ナノドットの抵抗変化を検出することで、本研究で提案した手法によるドーパント制御が可能であることの実証実験の完成を目指した。具体的には、走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて硫化銀ナノドット表面からの不純物銀原子の析出を行い、続いて、STM探針を硫化銀ナノドットに接触させることで硫化銀ナノドットの抵抗値を測定した。その結果、析出の前後における抵抗値の変化が1桁以上に上ることを見いだした。また、金属酸化物ナノドットを用いた実験でも、電気化学ポテンシャル制御による原子層単位での析出実験に成功した。この結果は、開発したドーパント制御技術の汎用性を示すものである。引き続き研究を行うことで、定量性のあるデータを積み上げ、論文発表等を行う予定である。
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