研究課題/領域番号 |
16K13692
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
和田 健 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 主幹研究員 (10401209)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 表面界面物性 / 量子ビーム / 陽電子 / スピン |
研究実績の概要 |
平成28年度は,スピン偏極陽電子源として,Na-22陽電子線源部の作成を行なった.74MBqの22NaCl水溶液の入ったアンプル3本分(合計222MBq)を遠隔操作によりマイクロシリンジで1~2μlずつカーボンに穿った直径1.5mm深さ0.6mmの孔へ滴下・乾燥して線源を作成した.この線源を密閉する容器を作成し線源を密封した.密閉容器のTi薄膜を介したビーム取り出し部は,希ガス固体モデレータにより効率良く陽電子エネルギーの単色化を行なうために2段からなるコーン状のものを作成した.このコーン形状の開口部の直径が最終的なビーム質を決定することになるため,できるだけ小さな径となるようにするが,線源作成時の22NaCl水溶液滴下システムの仕様及び希ガス固体モデレータの効率など総合的に判断し,出口の開口部の直径は2.4mmとした.希ガス固体モデレータを利用するための冷却システムと希ガス導入システムを構築した.低速陽電子ビームを静電輸送させるためのアインツェルレンズ3組からなる静電輸送システムと,陽電子のスピンの向きを進行方向に垂直するためのスピンローテータを構築した.線源部からビームを引き出すための引き出しグリッドを取り付け,線源と,引き出しグリッドを含む光学系の中心軸が線源部を10K以下に冷却した状態で精度良く一致させるよう微調整を行なった.これらのシステムにより輸送したスピン偏極陽電子ビームの透過型輝度増強システム用チャンバーを作成した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ビーム評価まではいたっていないものの,限られた予算の中で,廃品等をうまく利用しながらまずは初年度の目標としていたビームラインの構築を進めることができた.
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今後の研究の推進方策 |
来年度は,透過型リモデレータ位置におけるビーム評価をまず行なう.続いて,透過型リモデレータより下流側の輝度増強後のビーム輸送レンズ系のシミュレーションと作成を行なう.また,実際に輝度増強ビームを出し,ビーム径,ビーム発散角度,ビームエネルギー分散,スピン偏極率についてのビーム評価を行なう.検出器の手配がつけば,試料への斜入射による00スポット強度の入射ビームエネルギー依存性の計測と解析を行なう.
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次年度使用額が生じた理由 |
リモデレータより下流側の静電レンズ系の設計に関して,当初予定していたデザインでは問題があることが,本研究とは別の研究プロジェクトの結果から判明した.具体的には,リモデレータからの陽電子消滅ガンマ線が,LEPD検出器にバックグラウンドの主要な原因となり,回折パターンの観測が著しく困難となるという問題である.この問題を回避するため,急遽設計変更のためのシミュレーションを慎重に行う必要が出たため,実際にこの部分のレンズ系を作成をするのは次年度に延期することにした.
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次年度使用額の使用計画 |
改良案は,リモデレータからの再放出陽電子をいったん800eV程度まで加速し,60cmほどビームライン下流側に輸送し,その後に減速して試料に入射するというものである.これにより,リモデレータにおける消滅ガンマ線によるバックグラウンドを当初設計案と比較して1桁減じることができる.次年度は本改良案に基いた光学系のシミュレーションの最終確認と,設計・作成を行なう.
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