研究課題/領域番号 |
16K13693
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
豊田 光紀 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (40375168)
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研究分担者 |
高橋 栄治 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究領域, 専任研究員 (80360577)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 多層膜ミラー / 高次高調波 / 極紫外 / 軟X線 |
研究実績の概要 |
波長10-50nm程度の極紫外(XUV)領域では、高次高調波を基とするレーザー光源技術の発展により、瞬間パワー > 1GW、パルス幅500アト秒の実用的なフルコヒーレントXUV光が実現しつつある。本研究では、この高次高調波を回折限界で集光する、XUV多層膜ミラーによる集光システムを開発する。具体的には、独自に開発した解析的光学設計法により、大開口数(0.3から0.5)で安定してサブ100nm集光が可能な新規設計解を見出す。さらに、新規集光システムを試作し、現有のXUV光源を回折限界集光し、原子・分子内において非摂動論的な物理現象が十分に発現する高強度アト秒XUV場を発生させることを目指す。 H28年度には、XUV集光ミラーの実現の鍵となる、新規光学デザインの探索を行った。代表者はこれまで、Schwarzschild対物ミラーを主光学系とする2段結像による高倍率対物系を提案し、世界最高分解能となる線幅30nmのテストパターンの解像に成功している。一方で、球面から成るSchwarzschildミラーでは、5次以上の高次球面収差やミラー設置誤差(偏心)で生じるコマ収差の影響で、高分解能を得られる開口数は0.2程度に制限される。大開口数を実現するため、本研究では、2枚の回転対称非球面ミラーからなる対物系を採用し、残留収差を大幅に低減する新規解を探索した。初めに、これまでの研究で得た3次収差係数をベースとして、大開口数系で顕著となる高次収差の解析表現を導出した。さらに、導出した解析表現を用いて、大開口数系において高分解能とミラーアライメント精度の緩和を両立した新規設計解を大域的に探索を行った。今後は、光線追跡法を援用し新規解を評価・最適化し、サブ100nmの高分解能と高いスループットを両立する大開口数集光ミラーの光学デザインを得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H28年度に計画した、解析的アプローチによる新規集光光学系の設計解探索が順調に進展しているため。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度は、光学設計を決定しさらに大開口数集光ミラーを試作する。集光ミラーの試作では、ミラー基板の研磨、多層膜ミラーの成膜、および、光軸調整の3ステップが必要となる。多層膜ミラーの成膜では、高反射率に加え、アト秒パルスを維持するため、広反射帯域と低群遅延分散(チャープ)が求められる。これまでの研究で波長40nm域では、SiC/Mg多層膜が反射率・帯域の点で優れていることが分かっている。本研究では、現有のマグネトロンスパッタ装置によりSiC/Mg多層膜を予備成膜し、放射光により群遅延分散を実測する。反射率と全電子収量(TEY)スペクトルを計測し、ミラー表面に生じる定在波の位相変化より群遅延分散を予測し、膜構造の最適化(周期数等)を行う。次に、最適化構造に基づき非球面基板上に多層膜ミラーをスパッタ成膜し、さらに精密アライメント用ホルダ内へミラーを設置し、集光系を完成する。精密アライメント用ホルダは、多元研技術室と共同で設計・作製する。最後に、ミラー系を現有の点回折干渉計上に設置し、波長40nmでの回折限界集光に必要となる、波面収差2.5nm rms.以下に精密アライメントを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究開始時には、光学設計における解析計算用にワークステーションの導入を予定していた。一方で、研究の進展により計算規模を縮小する近似解を得ることができ、ワークステーションの導入が不要となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
集光用多層膜ミラーの成膜には、多数の予備成膜・評価が必要となる。研究を着実に進展させるため、当該助成金は、予備成膜用の消耗品に充当する予定である。
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