研究課題/領域番号 |
16K13694
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
芦原 聡 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (10302621)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | プラズモニクス / 振動分光 / 非線形分光 |
研究実績の概要 |
本研究では、赤外波長域においてプラズモニクスと非線形分光を融合した、新規な振動分光法の創出を目的としている。本年度は、「研究項目(A)赤外共鳴アンテナを用いた振動分光計測の超高感度化」と、次年度に計画していた「研究項目(B)赤外共鳴ナノアンテナを用いた非線形分光計測」の一部を実施した。以下に本年度の成果をまとめる。 (1)赤外域表面伝搬型プラズモンの基礎特性評価:プラズモンの諸性質は、表面伝搬型プラズモン(SPP)の性質に支配される。本研究では、金/空気界面のSPP伝搬長を測定し、中赤外域では10mm以上伝播することを示した。また、表面モルフォロジーと伝搬長を相関させることにより、単結晶粒径が大きくなるにつれて伝搬長が長くなることを明らかにした。 (2)赤外共鳴アンテナによる振動分光計測の超高感度化:時間領域差分法を用いた数値解析により、高い電場増強度をもたらす金属ナノ構造を設計しそれを作製した。この金属ナノ構造を利用して線形振動分光を行い、ファノ共鳴に特有のスペクトル形状で信号が増幅されることを確認した。また、信号の局所増強度として一万倍を得た。 (3)表面増強-非線形分光法の開発:高速な光-物質相互作用を増強するため、プラズモニック増強場の時間応答を数値的に調査した。赤外共鳴アンテナを二次元周期的に配列させることにより、伝搬光がプラズモンを共鳴励起するとともに、散乱光を通して近接するアンテナ同士が相互作用する。両者を考慮することにより、高速応答性と高い電場増強度をあわせもつ金属ナノ構造を設計した。開発した金属ナノ構造を利用して非線形振動分光を行い、局所的な信号増強度として一千万倍を得た。また、測定に必要な光パルスエネルギーを従来の100分の1に低減することに成功した。さらには、透過配置のみならず、反射配置によっても同様の表面増強-非線形振動分光が可能であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、「研究項目(A)赤外共鳴アンテナを用いた振動分光計測の超高感度化」と、次年度に計画していた「研究項目(B)赤外共鳴ナノアンテナを用いた非線形分光計測」の一部を前倒しして実施した。 金属ナノ構造の設計・作製から線形振動分光計測は極めてスムーズに進んだ。数値解析による予測と合致する信号増強度が得られたため、次年度に計画していた非線形信号分光へと駒を進めた。 非線形振動分光計測においては、散乱光の問題など、技術的な壁にぶつかることもあったが、いくつかの課題を解決して、透過配置での超高感度化の実証に成功した。 さらには、反射配置でこの計測を実現できれば、増強信号のスペクトル解析が容易であり、水など赤外吸収の強い溶媒中の(生体)分子計測が可能になる、という利点に気づき、反射配置での実証を試みた。金属ナノアンテナの配列を工夫することにより、反射配置における表面増強-非線形振動分光法の有用性を実証した。 以上のように、赤外共鳴金属ナノアンテナを用いた振動分光計測の超高感度化に加え、非線形振動分光の超高感度化を達成した。中赤外SPP基礎特性の計測と合わせ、3本の論文として投稿しており(1本は掲載済み、1本は受理、1本は査読中となっている)、当初の計画以上に進展したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の展望として、さらなる高感度化、および、表面増強-二次元分光計測が考えられる。また、実用的に興味のある対象への適用を予定している。例えば、生体高分子のフォールディングとそのダイナミクスの計測、表面化学反応の計測・制御への適用が考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に得られた成果をさらに発展させるための研究を計画しているが、そこで経費が必要となる。
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次年度使用額の使用計画 |
さらなる高感度化・高機能化のための金属ナノ構造の材料費および作成費、計測対象となる生体試料の購入費、さらには二次元分光測定系の開発費として利用する。次年度中に全て使用する。
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