研究課題/領域番号 |
16K13698
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
川田 善正 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (70221900)
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研究分担者 |
居波 渉 静岡大学, 電子工学研究所, 准教授 (30542815)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 光マニピュレーション / レーザートラップ / 光学顕微鏡 / 燃焼解析 / 微小液滴 / 光操作 / 高速度観察 / レーザー計測 |
研究実績の概要 |
本研究では、光伝導性基板を用いて光照射によって仮想的な流路を形成可能な光制御電気泳動技術を確立するとともに、液中の多数の粒子を柔軟に操作できる光マニピュレーション法を開発し、高機能かつ汎用性の高いマイクロ分析システムやマイクロリアクタを実現することを目的として研究を実施した。光伝導性材料では、光照射によってその伝導率が大きく変化するため、一様に印加した電場を光照射によって基板上で制御することができる。照射パターンを適当に設計すれば、光照射領域に沿って粒子が移動する仮想的な流路を形成することが可能となる。開発した技術をナノコロイド粒子や生物細胞などの解析に応用するための制御法の体系化と理論構築を行なうことを目的とした。 光伝導性基板を用いることにより、光照射によって仮想的な流路を形成でき、多数のナノ粒子の挙動を柔軟に操作可能な光操作(光マニピュレーション)技術を開発するとともに、ナノ/マイクロ分析システムに応用し、試料の挙動を光制御可能な電気泳動技術を開発するための基礎実験を行なった。光伝導性基板は半導体材料であるため、適当な波長の光を照射すると伝導電子と正孔が誘起され、光照射領域の伝導性が著しく増大する。そのため光照射パターンに依存して基板上に不均一な電位勾配が形成される。つまり基板に照射するパターンを適当に設計することにより、基板上の電位勾配を制御でき、粒子が光照射領域に沿って移動する、仮想的な流路を形成することができる。マイクロ分析システムとの組み合わせにより、柔軟に試料を操作可能な高機能光マニピュレーション技術が可能となる。本研究では、光伝導性基板による駆動原理を明らかにするとともに、その特性を解明することを目的として基礎実験を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で開発する光伝導性材料を用いた光制御可能な電気泳動法システムは、照射するパターンによって基板上に仮想的な流路を形成するための、パターン照射システム、照射条件の最適化、電位勾配における荷電粒子の挙動解析技術を開発することが大きなポイントになる。そのため、透過率分布をもつマスクにより基板に照射するレーザー光パターンを制御し、そのパターンを基板上に結像するための光学系を設計、構築するとともに、粒子挙動を観察するための顕微光学系を導入した。 開発した光伝導性基板を用いた電気泳動システムの構成では、光源に用いる高出力レーザーには、基板の吸収に合わせて青色の波長域を用い、光照射によって大きな伝導率変化が生じる構成とした。レーザー光の照射パターンはマスクを用いて制御し、結像光学系により基板上に結像する。基板の厚み方向での照射パターンのボケを抑えるために、焦点深度の大きな光学系を設計し、使用するレンズなどを検討した。 駆動する粒子には、標準試料として大きさおよびその分散が制御されたポリスチレンラテックスを用いた。粒子の大きさによる泳動速度、光照射強度および照射パターンによるその移動方向、速度などの基礎データを取得し、本手法による光マニピュレーション技術の特性、問題点を明らかにするための基礎実験を行なった。様々な大きさおよび材質の粒子を用い、その泳動特性をモニターし、光照射による挙動制御を試みた。その結果、光伝導性基板にレーザー光を照射することにより、粒子の絵移動速度、方向などを制御できるとともに、光強度および照射パターンを制御することにより、粒子の材質または大きさによるフィルタリングを実現可能であることを示した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で光伝導性材料して使用するBSO材料の光照射による伝導率の変化を計測する。光強度、波長による伝導率変化を明らかするとともに、2次元分布をもつ光パターンを照射した場合の伝導率分布を明らかにする。とくに光の照射領域と非照射領域の境界での伝導率分布を明らかにする。より高精度な光マニピュレーションを実現するためには、照射パターンからの伝導率分布のずれ、にじみなどが重要になると考える。これらのずれやにじみは基板の厚みに大きく依存すると考えるので、これらの解析結果から最適な基板の厚みを求め、光マニピュレーション法の操作精度について検討する。 光伝導性基板に光パターンを照射した場合に形成される電位勾配分布を数値シミュレーションにより解析する。数値解析には、光伝導性基板を2次元的に連結された多数の抵抗による回路ネットワークとしてモデル化し、光の照射領域のみ伝導性が高くなる、つまり抵抗値が小さくなると仮定して、外部から抵抗回路に印加した電圧による各抵抗間の電圧降下を数値解析により導出する。数値解析の結果からさまざまな光照射パターンを入力した場合に形成される電位勾配を体系化し、仮想流路形成に必要な照射パターンの設計指針を明らかにする。 試作したシステムを用いて標準粒子を操作した結果と理論解析結果を比較検討し、微小な領域における光伝導性基板を用いた光マニピュレーション技術の理論構築を行なう。標準粒子の挙動を解析した結果と電位勾配の数値解析結果を詳細に比較検討し、システムの問題点の洗い出し、数値解析手法の精度を明らかする。これらの結果をシステムおよび解析手法にフィードバックし、より柔軟性と操作性の高いシステムを目指して光学系全体の再設計と精度の高い解析手法の開発を目指す。
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