研究課題/領域番号 |
16K13706
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
欠端 雅之 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (70356757)
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研究分担者 |
屋代 英彦 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (30358197)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 光プロセッシング / フェムト秒レーザー / セラミックス / ジルコニア / 周期構造 / 結晶相 / 機械強度 / アブレーション |
研究実績の概要 |
フェムト秒レーザーを適切な条件で照射することでイットリア安定化正方晶ジルコニア多結晶体(3Y-TZP)表面への周期的微細構造が形成できることを見出した(M. Kakehata et al., Proceedings of LAMP2015, A201(2015) )。3Y-TZPは機械的特性に優れインプラントや人工関節などの医療用部材に用いられており、本手法を応用することで親水性の制御や機能性材料膜の強固なコーティングなど医療用部材の性能向上が期待される。本研究では、医療用3Y-TZPへの周期構造形成条件の探索、形成機構の解明、構造形成された材料の特性評価などを行い、本手法のインプラントへの応用の可能性を探索することを目的とする。 研究分担者及び連携研究者と協力し研究を進め、平成29年度は以下の結果を得た。 1.周期構造形成機構の解明を目的としたダブルパルス照射実験を行った。二つのパルスのフルエンスと遅延時間を変化し、形成される周期構造を評価した。具体的には、偏光の異なる二つのパルスに-100 psから+100 ps の範囲の遅延を与え、数十回照射した後で形成される周期構造を系統的に調べることで、構造形成を支配する要因について新たな知見を得ることができた。2. ISO14704に基づいた機械強度評価として大きさ 3x4x45 mmの曲げ試験片の一面にチタンサファイアレーザーを照射し、4点曲げ試験を実施し強度を求めた。さらに生体内で20年から30年の継時変化に対する安定性を評価するため、レーザー照射した試験片に対してISO13356で定められている熱水劣化処理(134度、2気圧、5時間)を実施し、特性を評価した。インプラント応用に必要な条件(ISO13356) のうち機械強度と結晶相の条件を満足し、インプラントへの応用が期待できることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は以下の結果が得られた。 1.周期構造形成条件の系統的探索として(1)チタンサファイアレーザーを光源とし、照射条件と周期構造形成の関係を系統的に明らかにした。具体的にはパルス幅への依存性と、楕円偏光に対する依存性を明らかにした。(2)照射レーザーの波長依存性の測定:吸収が構造形成に果たす役割を解明することを目的とし、異なる波長のレーザーとしてイッテルビウムレーザーの基本波、二倍波、三倍波を用いた周期構造形成を行い、波長依存性を明らかにした。 2. 構造形成された材料の特性評価として(1)表面形状を共焦点レーザー顕微鏡やSEMを用いて観測した。また断面をSEM、SIM、 TEM等で観察を行った。(2)結晶相の評価をX線回折測定により行い、深さ方向の依存性も含めて結晶相の情報を得た。 平成29年度には以下の結果が得られた。 3.機構解明を目的としたダブルパルス照射実験として波長810 nmのチタンサファイアレーザーを用い、異なる偏光を持つダブルパルスを複数回照射して形成される構造を観測した。一方のパルスのフルエンスをアブレーション閾値以下から周期構造形成可能な高いフルエンスまで変化し、パルスのフルエンス比を1:1から1:3程度まで変化させた。時間遅延は±100 psの範囲とした。周期構造に影響を与える重要な要因に関する新たな知見を得た。4.機械強度評価として4点曲げ試験片を作製し、チタンサファイアレーザー照射と強度の関係を調べた。生体内での20年から30年の継時変化に対する安定性を評価するため、ISO13356に定められている熱水劣化処理を施し、機械強度と結晶相についてインプラント応用に必要な条件を満たすことを確認した。 当初の研究目的を達成するために必要な実験が行われ、本研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は周期構造の形成機構解明と応用への展開を目的とし、以下の項目を行う。 1.波長の異なるレーザーにより形成された周期構造断面の詳細な観察を行う。 2. 得られた周期構造の各種パラメータへの依存性や、ダブルパルス照射実験の結果等を矛盾なく説明できる周期構造の形成モデルを検討し提案する。 3. 機械強度へのレーザー照射の影響について検討するため、4点曲げ試験後の試験片の破断面観察を行う。 4. 得られた結果を学会発表や論文発表の形でまとめ、研究成果の発信を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、「波長の異なるダブルパルス照射実験」による周期構造形成機構の解明を予定していた。しかし研究を進める過程で、「同じ波長で異なる偏光を持つダブルパルス照射実験」によっても周期構造形成の時間的発展の情報を簡便にかつ明確に得られることが分かった。そこで「同じ波長で異なる偏光を持つダブルパルス照射実験」の手法を用いて依存性を評価することとした。 上記の理由により当初予定していた「波長変換装置部」を整備しなかったことが、次年度使用額が生じた主な理由である。なお、今回選択した「同じ波長で異なる偏光を持つダブルパルス照射実験」によって、形成機構に関係する新たな知見が得られており、実験の目的は達成されたといえる。また、差額の一部は透過型電子顕微鏡による断面の詳細な観察費用として有効に活用した。 次年度は、実験に必要な消耗品等の購入費用、成果発表のための国際学会に関係する外国出張費用、論文執筆のための英文校正費用や論文投稿費用に使用する計画である。
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