研究実績の概要 |
研究三年計画の初年度である今年度は, 原子層物質中励起子の拡散機構解明に焦点を当てて研究を行い以下の成果を得た. 本研究の最終目的である原子層物質を用いたフレキシブル単一光子源の開発には, 原子層物質からの発光を司っている励起子の振る舞いを詳細に解明する必要が最優先であるとの発想から, 原子層物質中の励起子拡散の挙動を幅広い温度範囲で測定した. その結果, まず, 4.5 K~75 Kの低温領域では, 電荷と衝突した中性励起子のほとんどが荷電励起子(トリオン)となる極めて高いトリオン生成効率を持つことが判明した. 一方で電荷と衝突しなかった中性励起子に関しては, 半値幅が温度に依存せず低い値を示すことから, 非常に低い散乱確率で原子層物質中を自由に移動すると考えられる. 75 Kから225 Kの中温領域では, 荷電不純物散乱による効果として知られている温度の5/2乗に比例した拡散係数の振る舞いが確認された. これは, 温度の増加と共にトリオン生成効率が低下し, 電荷と衝突した中性励起子の一部がトリオンにならずにそのまま中性励起子として拡散する振る舞いによるものとして説明できる. 225 K以上の高温領域では, トリオン生成効率は著しく低下することが分かった. また温度の増加と共に拡散係数が著しく低下し, かつ半値幅が増加していることからフォノン散乱による効果が支配的となることが判明した. これらの知見は, 次年度以降の単一光子発光を実現する上で非常に重要な知見である. また, 単一光子発光に必須である不純物の添加に関しても, 原子層物質中への磁性不純物ドーピングが可能なプラズマ装置の立ち上げを行った. 次年度以降本装置によりドーピングサイトと密度の制御を実現し単一光子発光の実証を目指す.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究三年計画の初年度にあたる今年度は, 原子層物質からの発光を司どる励起子の拡散機構解明に特化した研究を行った. その結果, 励起子拡散係数の温度に対する振る舞いが三つの特徴的な温度領域(低温, 中温, 高温)に分類できることが分かり, それらの各温度範囲における励起子拡散を説明する物理モデルの提唱を実現した. この様な幅広い温度範囲において原子層物質中の励起子拡散機構を解明したのは本成果が世界で初めての成果である. 研究内容の一部は当初の計画とは異なる部分も含まれているが, 今年度得られた成果は次年度以降の原子層物質を用いた単一光子発光実現に向けて非常に重要な知見である. 上記の理由により今年度の成果を“当初の計画以上に進展している”と評価した.
|
今後の研究の推進方策 |
研究三年計画の二年目に当たる次年度は, 初年度に立ち上げを行った不純物ドーピング装置を用いて原子層物質への積極的な不純物ドーピング制御を実現する. 具体的には磁性元素に焦点をあて, 不純物ドーピング装置中のプラズマ密度, 空間電位, 電子温度, 基板バイアス等を制御して, 原子層物質における不純物元素のドーピングサイト, 及び密度を精密に制御してドーピングを行う. さらにそれらの機能化原子層物質に対して低温下での蛍光スペクトル測定, 及びその空間マッピングを行い, 単一光子からの発光を実証する.
|