本研究では,大気圧プラズマによる極微量のプラズマ刺激の時空間分布を測定できる『超高感度細胞センサアレイ』の作製を目的としている.最終年度は,これまでの活性種による酸化刺激,電界・電流による電気刺激に加えて,衝撃波等による圧力刺激に対する細胞応答を計測するとともに,これらの異種刺激に反応する細胞センサの高感度化および高選択化に向けた実験を行った. 1.液中マイクロプラズマの直接照射により液中底部に到達する衝撃波による圧力刺激による細胞応答(細胞へのカルシウムイオン流入に起因する細胞の蛍光強度)を観測した.圧力刺激に感受性を持つチャネルであるPIEZO1を選択的に阻害する試薬を用いることで,細胞の蛍光強度が減少することが明らかとなった.一方で,活性酸素種のスカベンジャーの導入では細胞の蛍光強度の減少は観測されなかった.従って,PIEZO1は酸化刺激には反応しないことが分かり,PIEZO1を強制発現させた細胞により圧力刺激センサの高選択化が可能であることを示した. 2.細胞センサの高感度化および高選択化を目指して,異種刺激に反応するチャネルを有する細胞を得るため,TRPV1およびTRPA1チャネルをそれぞれ強制発現させた細胞を作製した.その結果,TRPV1ではOHラジカルの感度が,TRPA1では過酸化水素の感度が上昇することを明らかにした.すなわち,酸化刺激センサにおいて異なる活性種を選択的に計測できることを示した. 3.細胞センサアレイで計測した異種プラズマ刺激の強度と遺伝子導入への効果を比較するため,上述したチャネルを有する細胞で遺伝子模擬物質の導入量を測定した.プラズマ生成電力,照射距離,照射時間を制御することで,大気圧プラズマでは電気刺激存在下でのOHラジカルによる酸化刺激が,液中マイクロプラズマでは衝撃波等による圧力刺激が遺伝子導入の主要因子であることを明らかにした.
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