研究課題/領域番号 |
16K13711
|
研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
酒井 道 滋賀県立大学, 工学部, 教授 (30362445)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 弱電離プラズマ / 化学反応 / 複雑ネットワーク |
研究実績の概要 |
本研究では、弱電離プラズマ内の種々の反応、すなわち、電子衝突に起因して生じた活性種の反応系全体について、その理解と解明に迫るため、ネットワーク解析手法を応用する。弱電離プラズマ内に存在する数10~数100 の種の活性種とそれらの間の反応式を、節点および節点間を結ぶ枝で成り立つグラフ構造に割り当てて可視化し、中心性指標やクラスター係数等ネットワーク解析で導出される種々の指標値を計算し、反応系全体の中に占める重要な種や反応式の特定とプラズマプロセス中の電子の役割を明確にする。そして、弱電離プラズマ物理・化学の抱えていたあいまいさを客観的指標で示す手法を確立することを目的としている。 今年度は、まず化学反応のネットワーク化手法の開発を行った。ネットワークを表現するグラフとして、節点には各種粒子、節点間の枝には化学反応を対応させるが、複数の反応物と生成物の間の枝の有無の設定法について普遍的な手法を提案した。そして、アンモニア系、メタン系、およびシラン系のプラズマ化学反応をネットワーク表現することに成功した。 次に、解析手法として、枝の太さ制御を検討した。枝の太さとして、均一な場合と、速度反応定数に対応した太さを割り当てた場合を比較したが、例えば指標値としてページランク値の変化はあまり見られなかった。これは、対象とする粒子が数10以上となると、同じ次元数の空間内で固有ベクトルを求めることに等価となり、枝の太さより枝の有無が大きな影響を持つことによると考えられる。さらに、ネットワーク指標値の物理的・化学的意味について検討した。例えばページランク値は、固有ベクトルの要素と同様の値を取り、他の粒子からもたらされる粒子数の増減を示す指標であると解釈できた。 また、実験系の整備を行い、アンモニアの分解量とヒドラジンの生成量を定量的に測定できる環境の整備が完了し、来年度の実験に適用可能である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究実施計画に掲げていた、項目はすべて達成している。通常の化学プラント等の中で進行する化学反応が、副生成物は存在するものの、チェーン状に進行する反応がほとんどの状態に制御されるのに対して、弱電離プラズマ中の化学反応は多くの反応が同時に進行し、結果として目標生成物に至る反応径路が多数存在する。まず、このようなプラズマ化学反応の特徴を明確に可視化する手法を提案することができた。 そして、化学反応とそのネットワーク指標値との間に、明確な関連を指摘することができた。従来検討では、チェーン状の化学反応に対する数学的な理解は進んでいたものの、複雑ネットワーク系としての理解は進んでおらず、かつ複雑ネットワーク分野で培われた手法のいくつかをプラズマ化学系の解釈に使用しうる環境が整った。 今年度の成果は、2017年3月の複雑ネットワークの国際会議(The 8th international conference on complex networks)で発表し、その新規性と進歩性について一定の評価を得た。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画の変更は無く、交付申請書に記載の内容を遂行する。 特に、プラズマ化学の反応ネットワークの複雑性に含まれる意味合いを明確にしたい。すなわち、通常の化学反応と比べてより複雑になっているのは、ただ単に制御性を悪くしているだけとは限らない。例えば、細胞内のタンパク質反応系は複雑ネットワークとなっていることが知られているが、このように複雑になっていることで外乱等に対して頑強(ある反応径路が働かなくなっても、他の反応径路がその働きを補充する)であると指摘されている。このような利点がプラズマ化学反応においても存在する可能性が高く、解析を進めたい。 また、次年度は、実験結果の取得を行える状態となっているので、各粒子種の量(生成密度)とネットワーク指標値との関連をより明確にする検討を行う予定である。
|