研究課題/領域番号 |
16K13712
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研究機関 | 大阪電気通信大学 |
研究代表者 |
中村 敏浩 大阪電気通信大学, 工学部, 准教授 (90293886)
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研究分担者 |
橘 邦英 大阪電気通信大学, 工学部, 客員研究員 (40027925)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 気液界面プラズマ / 誘電体バリア放電 / 有機過酸化物 / 過ギ酸 / 二酸化炭素固定化 |
研究実績の概要 |
二酸化炭素の削減・固定化に向けて、人工光合成や電気化学還元法に代表される様々な技術開発の必要性が高まっている。我々は、気液界面プラズマを活用することによって、無触媒・中性pHの条件で二酸化炭素から低分子有機化合物の一つである過ギ酸への変換が可能であることを世界で初めて発見した。本研究では、その機構を解明していくことによって、さらに高エネルギー効率で過ギ酸を合成する革新的プラズマ技術を開発する。特に、密閉型気液界面プラズマ反応の診断と反応機構の検証に焦点を当てて研究を進める。気液界面プラズマ反応を支配する物理パラメータ(電源周波数、デューティー比、ギャップ長・ギャップ電圧、ハニカム電極の孔形状・開口率)を変化させて、選択的過ギ酸合成反応の速度と効率を実測し、その相対的寄与の大きさを定量的に把握する。実効的な気液接触面積の大きいハニカム電極の構造の設計と製作も進め、密閉型気液界面プラズマ反応のエネルギー効率を飛躍的に高める。 さらに、過酸化物の中でも秀でた酸化力をもつ過ギ酸の特性を活用した殺菌・滅菌などの医療応用への可能性を探究する。過ギ酸は有機過酸化物の中で最も酸化力が強く、有機合成、汚水処理、食品工業など多様な用途が知られているが、強酸性条件での過酸化水素とギ酸の平衡反応を利用した従来合成法で作製した過ギ酸混合物は、特殊な環境でなければ利用が難しい。一方、本研究において気液界面プラズマ反応を利用して中性pH条件で合成される過ギ酸水溶液は、熱的に極めて安定であり無臭であるうえに、大腸菌の殺菌作用や有機物の分解作用において過酸化水素と比べて一桁以上強い酸化力を有する。この特徴を医歯学分野で新たに活用を図るべく、殺菌・滅菌・消毒などの医療応用について系統的な検証実験を進め、実用化戦略を構築する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
密閉型気液界面プラズマにより、二酸化炭素と水だけから有機物の過ギ酸が合成される反応機構としては、水分子の解離によって生成されるH ラジカルとOH のラジカルが、振動励起された二酸化炭素分子と逐次反応するモデルが考えられる。その反応機構を検証していく前提として、まず放電プラズマ中での水分子の密度を知ることが必要である。そこで、まず、波長可変半導体レーザー吸収分光法を用いて、気液界面近傍の水分子の密度を測定した。水分子は赤外域に振動回転遷移による吸収を有するが、適度な吸収強度とレーザー波長の関係から、1.4 μm 帯での吸収の中から波長1.3925 μm の振動回転線を選択して測定を行った。従来用いてきた密閉型気液界面プラズマ装置では、気液界面が反転した構造である(メッシュ状の上部金属電極の上に水が担持され、下部の誘電体被覆電極の脇の細孔から導入された二酸化炭素ガスの圧力と水の表面張力によってメッシュ直下に気液界面が形成されている)が、このままでは気液界面近傍に計測用レーザー光を通すことができない。そこで新しい方式を考案し、ガス流によって窓のパージを兼ねることができるように工夫した。また、上下が反転していない通常の誘電体バリア放電装置においても同様の測定を行った。 その結果、上下反転した密閉型気液界面プラズマ装置では、非反転の誘電体バリア放電装置に比して、下からのガス流によって水蒸気が上部電極に向かって押し上げられるため、その密度が低下していることがわかった。そのことが、過酸化水素の生成を低減し、相対的に過ギ酸濃度を高めている要因であると考えられる。 このように、密閉型気液界面プラズマ反応の診断と反応機構の検証のための実験を着実に進めている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に行った密閉型気液界面プラズマ反応の診断と反応機構の検証のための実験をさらに推進する。これらの実験により蓄積したプラズマ密度やOH, Hラジカルの密度に関する基礎的データに基づいて、気液界面プラズマ反応を支配する物理パラメータ(電源周波数、デューティー比、ギャップ長・ギャップ電圧、ハニカム電極の孔形状・開口率)が、選択的過ギ酸合成反応の速度と効率に及ぼす影響の解析を進める。これらの作業により、気液界面放電の制御因子と選択的過ギ酸合成反応との相関を明確に把握する。 さらに、これまでの研究成果を踏まえて、密閉型気液界面プラズマ反応装置の改良とスケールアップも進める。医療応用のための必要濃度条件を踏まえながら、さらなる高濃度化と大量生産のための電極構造の改良を進め、装置的スケールアップのための最適形状と構造を設計する。これにより実用装置として試作品を完成させることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
電極などの微細加工部品にかかる金額が当初予定より少額で済んだため、40,679円の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度も密閉型気液界面プラズマ反応の診断と反応機構の検証のための実験を継続的に推進することから、これらの実験に用いる微細加工部品等を購入するための消耗品費が必要である。そこで、40,679円の次年度使用額は、翌年度分として請求した助成金と合わせて、微細加工部品等のための消耗品費として用いることを計画している。
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