研究課題/領域番号 |
16K13713
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
松田 理 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (30239024)
|
研究分担者 |
O・B Wright 北海道大学, 工学研究院, 教授 (90281790)
友田 基信 北海道大学, 工学研究院, 助教 (30344485)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 表面音響波 / イメージング / フルフィールド / 2次元撮像素子 / 時間分解 |
研究実績の概要 |
2次元撮像素子を使用したピコ秒領域のポンププローブ・イメージング測定は、T. Pezeril らによって金属試料における過渡的反射率測定の結果が報告されている(Opt. Exp. 22, 4590 (2014))。本研究では、これに干渉計による表面変位検出系を組み合わせた装置を開発し、光励起された表面音響波を時間分解2次元イメージングすることを目的としている。このために、単一プローブスポットを用いる既存の表面弾性波の時間分解2次元イメージング測定系を元にする。この装置では、繰り返し周波数76MHz、パルス時間幅100fsのモードロックTiサファイアレーザーを光源として用いる。光パルス列の一部から非線形光学結晶を用いて第2高調波を生成し、光学遅延を介して弾性波生成のためのポンプ光とする。弾性波伝播による試料の表面変位を検出するためにプローブ光の光学系は干渉計を構成する必要がある。従来の光学系では、この部分に我々が独自に開発した共通光路型干渉計を用いていた。この干渉計は、わずかに異なる時刻(時間差~300 ps)の表面変位の差、すなわち表面変位速度を光強度に変換するもので、能動的な安定機構なしに試料表面の変位速度を極めて安定に検出可能なものである。本研究においては、この干渉計部分を改造して、表面変位の2次元イメージをそのままカメラの撮像面に2次元光強度イメージとして転送する干渉光学系を試作した。これは従来の干渉計に4f光学系を用いたイメージ転送を組み合わせたもので、試料上の表面変位速度像が拡大されてカメラの撮像面に投影される。試作した干渉計の動作確認のために、圧電素子を使用したバルク音響波フィルタデバイスを試料として、励起光パルスから生成したナノ秒時間幅電気パルスでこれに励起した音響振動のイメージを観測した。基本動作の確認には成功したが、露光時間の短縮など課題が残っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載の「研究の目的」は、表面音響波の高速時間分解2次元イメージング法の開発である。これに対して「研究実施計画」では、2次元撮像素子を用いたイメージングに用いる干渉計の開発とその動作確認を行うとした。これに対して、既存に共通光路型干渉計を拡張したイメージング干渉計を考案・試作し、その動作確認実験を行った。雑音低減のために音響振動の存在・不存在状態のイメージを独立に測定し、その差をとることで音響振動イメージを取得できることを確認した。カメラには当初安価なUSBウェブカメラを使用したが、これでは良好な結果は得られなかった。しかし、浜松ホトニクスから高性能のCMOSカメラを1週間という限定期間ではあったが借用することができ、これを用いて干渉計の動作確認に成功した。ただし、測定対象としては当初計画では光励起表面音響波を予定していたが、より大きな振動振幅が期待される圧電素子を用いた音響フィルタデバイスに電気的に励起された振動をイメージするにとどめた。 関連研究として、音響波による光反射率の変調を定量的に扱う光散乱理論を構築した。これは一般の異方性媒質中に生じた2次元までの異方的な不均一誘電率変調を扱うことができる。入射プローブ光は任意の入射角および任意の偏光状態を持つものを扱う。構築した理論は、既に査読付き論文として専門学術雑誌(Journal of the optical society of America B)に掲載されている。
|
今後の研究の推進方策 |
試作したイメージング干渉計は、振動の有無による反射パターンを干渉させるもので、極めて小さな位相差を検出する必要がある。このため測定信号は大きな強度を持つバックグランド反射光上の微小な光強度変化を検出する必用がある。このため、検出イメージのノイズ低減は極めて重要であるが、現状のノイズ強度はまだ十分に低くなっていない。この問題に対処するために、プローブ光強度と露光時間の関係を最適化する必用がある。 昨年度設計製作したイメージング干渉計の倍率の選択も最適なものではなかった。観測対象に対して倍率が高すぎたために、一度に観測できる領域が構造の一部に限られてしまい、結果の評価を難しくしていた。今年度は、イメージング干渉計の倍率を決定するいくつかのレンズを迅速に切り替えて使用できる構造に改造する。 また、別の問題として、面に照射されるプローブ光のスペックルパターンの形成がある。これはレーザー光のように干渉性の高い光を面照射したときに、ビーム波面の乱れから微細な斑点状の強弱パターンが現れるもので、測定結果の信号雑音比を悪化させる。この問題に対処するために、H29年度は、フォトリフラクティブ結晶を用いた自己補償型の光干渉計の構築も計画している。
|