研究課題/領域番号 |
16K13714
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
深津 晋 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (60199164)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 音波 / 量子アルゴリズム実装 / 量子コンピューティング / 周波数自由度 / 音響量子論理ゲート / フォノン計算機 / 差動ゴーストイメージング / 単一光子へテロダイン |
研究実績の概要 |
現在、有用性が認識されている量子アルゴリズムは3つある。ところがこれらの実装には「波」のコヒーレンスのみが重要で量子性や非古典性が不要な事実は意外と知られていない。本研究はこの点に注目し、光よりもコヒーレンスが良いとされる音波を用いて量子計算・ビッグデータ高速検索の実践的なプラットフォームを構築、ビット型量子計算(「音で量子コンピューティング」)の可能性を模索するものである。とくに音の「周波数自由度」を利用して音響量子論理ゲートの具現化を試みる点に特長がある。
H29年度は3Dプリンティング導波路、分波・合波器と共振器型バンドパスフィルタを組み合わせた超音波帯域の量子論理ゲート試作を試みた。その結果、ゲート構成部品の結合損失と伝送損失に加え、機械力学系の振動励起にともなう損失が予想以上に大きくなることが判明し、受動部品だけを用いた論理ゲート構築への困難が生じた。そこで熱音響効果他を利用した音響増幅器の設計と回路の試作を検討した。さらに回折損失や背景音他、自由空間伝播における問題を回避すべく水中を伝播する超音波や連続体内の孤立波の利用を模索した。
一方、秘匿性音波量子計算として前年度から検討しているゴーストイメージングプロトコル実装の予備検証を試みた。空間ドメインから時間ドメインへの転換を図り、実装の容易な光シミュレータを利用することで時間ドメイン上の差動ゴーストイメージングを検証した。また、擬似乱数光源のデューティー比の関数として自己相関と相互相関の比で決まる信号雑音比が差動プロトコルでは劣化しないことを指摘した。これは背景音の影響で明瞭度が低下する音響ゴーストイメージングにおいて重要な意味をもつ。さらにフォノン計算機を視野に入れた新しい時間ドメイン信号計測法を検討した。再び光シミュレータを用いることで周波数プロトコルによる単一光子へテロダイン干渉縞の捕捉に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
音波を利用した量子アルゴリズム計算機の実現には構成要素の綿密な動作検証が必須である。試行錯誤を重ねつつ概ね計画にしたがって研究を遂行してきたが、最終年度の平成29年度には予測になかった業務負荷の増大とともに構成要素を統合する過程で新たに発生した技術障壁の影響によって量子論理ゲートと最終的な計算機動作検証のためのフェーズが予定よりも遅延している。 その一方で派生的産物として差動ゴーストイメージングと単一光子ヘテロダインを光ベースではあるものの達成できた。これらは秘匿性の音響量子計算プロトコルとしてあるいは当初計画を超えたフォノン計算機の実装に直結しており、最終的な目標の上方修正に寄与できる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画どおり音響量子論理ゲートのプロトタイプ構築に向けて急ピッチで研究を推進する。部品試作とゲート実装の段階で浮上した超音波減衰の抑制には限界があることに鑑みて今後は音響増幅器の開発と実装に注力する。これにより量子論理ゲートとしてもつべきユニタリ性を譲歩しつつ音響回転ゲートと音響制御ノットゲートの動作検証と検索アルゴリズム実装の最終ステージへと研究を着実に進展させる。 一方、研究の途上で現実のものとなった差動ゴーストイメージングの技術体系と一光子ヘテロダインプロトコルの音響バージョン化を積極的に模索する。とくに研究過程で見いだされた音響光学素子による共振器を必要としない光・フォノン結合法の登用を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
H29年度の研究成果を発展あるいは未解決事項を追求するための部材購入に充てるべき物品費と研究成果発表のための旅費の支出。
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