現在、有用性が認識されている量子アルゴリズムは3つある。ところがこれらの実装には波のコヒーレンスのみが重要であって量子性や非古典性が不要な事実は意外と知られていない。本研究はこの点に注目して光よりもコヒーレンスが良いとされる音波を用いて量子計算・コンピューティング高速検索の実践的なプラットフォームを構築し、ビット型量子計算(「音で量子コンピューティング)の可能性を模索するものである。とくに音の周波数自由度を利用して音響量子論理ゲートの具現化を試みる点に特長がある。 延長年度に入ったH30年度では前年度までの一連の結果をさらに発展させることに主眼をおいた。とくに3Dプリンティング技術を駆使した導波路の作製に注力し、フォノニック結晶導波路による音響ダイクロイックミラーなど音響ハードウエア開発を試みた。その一方で秘匿性の音波プロトコルとして前年度に着手をはじめたゴーストイメージングの発展形を模索した。空間モードの音波位が反射、残響などに影響されることに鑑みて光の1次元導波との類似性に注目し、時間ドメインゴーストイメジングの技術体系を音の体系に移植することを試みた。その結果、1次元音響導波路において音波をリソースとするはじめてのゴーストイメージングに成功したが、この方法はスタート時点において差動モード動作という付加価値をもつ特徴がある。さらにフォノン計算機を視野に入れたプロトコルの創出を試みた。音響光学変調器を用いた光音響結合系により単一光子制御を通じた音響量子制御への道筋をつけた。この過程において見出された周波数プロトコルによる単一光子へテロダイン干渉縞を利用することで長年誤解されてきた空間ドメインのゴースト回折が光源・検出器配置が逆転した逆線二重スリットの文脈によって初めて整合的に理解されることを見出した。実際にこの結果は直ちに時間ドメインの光のゴースト回折の実証につながった。
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