研究課題/領域番号 |
16K13728
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
早川 岳人 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 東海量子ビーム応用研究センター, 上席研究員(定常) (70343944)
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研究分担者 |
中村 龍史 福岡工業大学, 情報工学部, 准教授 (40318796)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ガンマ線パルス |
研究実績の概要 |
近年、レーザー科学の進展によって高輝度レーザーの集光度が高くなり、レーザープラズマからガンマ線や粒子の生成が可能になっている。例えば、量子科学技術研究開発機構 関西光科学研究所でもペタワットレーザーのアップグレードが進められている。このようなレーザーで生成されたガンマ線パルスを用いて、原子核物理学・宇宙核物理学研究が可能になっている。従来の加速器ベースのガンマ線と比較して、極短パルス・連続エネルギー等の特徴を有する。超新星爆発の光核反応による元素合成過程(ガンマ過程と呼ばれる)では、温度が極めて高いためにプランク分布の高エネルギー成分がメガ電子ボルトの領域に達して、光核反応が発生する。このような現象の解明には、連続エネルギーを有するガンマ線がむしろ適していると言える。また、極短パルスである点も短い時間で発生する超新星爆発における物理現象の解明には適している。これまで、このような研究はされていなかったので、どのような物理現象(元素合成過程)を、どのようにレーザーを用いて実験可能かシミュレーションも含めて検討した。その結果、新しく3種類の実験が可能であると結論し、新規に提案した。なお、この提案は、オープンアクセスジャーナルのQuantum Beam Scienceで出版されている。また、実験の観点からは、パルス的に生成されるガンマ線のエネルギースペクトルの評価が重要である。従来の実験技術では困難であり、高輝度高繰り返しレーザーに対応するためには、短い時間(数分程度)で解析がすむ新しいガンマ線スペクトルの評価方法が望まれている。そこで、従来核融合の際に放出される爆発的な中性子の計測に使われていた放射化カウンタをガンマ線適用する。そのため、シンチレーター検出器を作成した。また、シミュレーションによる量子ビーム生成を研究した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
どのような物理現象(元素合成過程)を、どのようにレーザーを用いて実験可能かシミュレーションも含めて検討した。その結果、新しく3種類の実験が可能であると結論し、新規に提案した。これらは、超新星爆発時のガンマ線のエネルギー分布を再現したガンマ線パルスを対象試料に照射して、光核反応断面積を計測する手法、大強度かつ数百ナノ秒以上のレーザーパルスを試料に照射してプラズマを形成し、プラズマ中で熱平衡に達した原子核の励起状態に対する反応断面積を計測する手法、及び、ガンマ線パルスによって基底状態とアイソマーの遷移確率を計測する手法である。なお、この提案は、オープンアクセスジャーナルのQuantum Beam Scienceで出版されている。実験の観点からは、パルス的に生成されるガンマ線のエネルギースペクトルの評価が重要である。従来の実験技術では困難であり、高輝度高繰り返しレーザーに対応するためには、短い時間(数分程度)で解析がすむ新しいガンマ線スペクトルの評価方法が望まれている。そこで、従来核融合の際に放出される爆発的な中性子の計測に使われていた放射化カウンタをガンマ線適用する。この放射化カウンタは、シンチレーターの内部に設置した対象試料が光核反応で放射化し、ベータ崩壊(アイソマーのガンマ崩壊)で放出さえる放射線(ベータ線、ガンマ線)の数の時間変化を計測する手法である。そのため、シンチレーター検出器を作成した。
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今後の研究の推進方策 |
本提案がこの研究課題について実質的に最初の提案と言ってもよいが、シミュレーション及び理論的な考察によって、これまで研究されていなかった領域において様々な可能性があることを明らかになってきた。したがって、この考察をシミュレーションも含めてより深くすすめる。放射化カウンタについては、時間変化をほぼ確実に再現できるように解析技術の開発を進める。実際にガンマ線を用いて性能評価を行い、検収器の技術を確立する。放射化の対象となる物質については、現在の候補以外にも候補があるので、実験結果に応じて別の放射化対象試料を用いることも検討する。また、本研究で作成可能なのは1個の検出器のみだが、最終的には複数の検出器を用意してエネルギースペクトルを評価できるようにすることが目的である。そのための候補物質とアルゴリズムについても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では放射化カウンタを製作した。放射化カウンタは、シンチレーター検出器部分と放射化するための材料から構成される。この検出器のための放射化物として、新規に購入予定であったが、既に保有している材料物質を用いたために(B-A)が0より大きい状態となった。
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次年度使用額の使用計画 |
検出器の性能に応じて、放射化物質を交換する予定である。また、生成された放射性同位体が十分に崩壊した場合には再利用できるが、放射性同位体は厳密には有限の時間では100%崩壊することは原理的にない。そのため、多数の使用によって放射性同位体が蓄積する可能性がある。また、スペックシートにない微量な混合物によって予期しない放射性同位体が生成される可能性がある。これらは事前に予測は不可能なので実験を行って確認する必要がある。そのため、放射性同位体のレベルに応じて、新規に購入し助成金を使用する予定である。
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