研究課題/領域番号 |
16K13735
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
桑水流 理 福井大学, 学術研究院工学系部門, 准教授 (40334362)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 大規模計算 / マイクロメカニクス / 放射光CT / 超並列 / 有限要素解析 / 疲労 / アルミニウム合金 |
研究実績の概要 |
シンクロトロン放射光CTを用いて、金属組織の3次元構造を考慮した大規模有限要素解析の実現方法を検討した。対象は過去に実験したアルミニウム鋳造合金とした。大規模イメージベース有限要素解析の問題は、要素分割の困難さにある。本研究ではボクセル要素を用いることにより、確実かつ容易にメッシュ生成する。しかしボクセル要素の場合、階段状の表面や界面による解析精度の不足と、要素数が膨大になる弊害がある。解析精度の改善は次年度検討することとし、今年度はスーパーコンピュータを用いた計算実施可能性を検証した。 まず画像からボクセル要素を生成するプログラムを開発した。要素生成の際、並列計算のための領域分割も同時に行える。これにより、数十億要素でも要素生成が可能であることを確認した。有限要素解析にはオープンソース有限要素解析コードFrontISTRを使用したが、疲労解析に必要な非線形硬化則モデルが8節点6面体要素に組み込まれていないため、新たに多直線移動硬化則モデルを実装した。並列計算には、東京大学情報基盤センターFX10(平成28年度HPCI一般課題利用)および九州大学情報基盤研究開発センターFX10(有償利用)を使用した。東京大学FX10では約1.7億要素の弾塑性解析に成功した。また、ポスト処理にも並列処理が必要であるため、汎用可視化ソフトAVS/Express PCEを用いて、応力やひずみの3次元可視化を試行した。可視化は大阪大学サイバーメディアセンターVCC(有償利用)にて実施した。FrontISTRの出力ファイルからAVS/Express PCEの入力ファイルを作成するプログラムは独自に開発した。 以上の検討結果に基づき,平成29年度HPCI一般課題申請を行い,スーパーコンピュータ「京」の使用が採択された。次年度は、「京」を用いた超並列計算と精度改善の要素開発を実施する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,アルミニウム鋳造合金の放射光CT画像から並列計算用ボクセル有限要素モデルを自動生成するプログラムを開発した。並列計算のための領域分割も同時に行い、マスター節点とスレーブ節点を自動で設定できる。並列効率はやや落ちるが、簡便のため直方体領域で分割している。境界条件データも同時に作成することができ、汎用有限要素解析コードFrontISTRでそのまま実行できる入力ファイルを、プリ処理ソフトを使わずに作成できるようになった。 大規模並列処理の実施可能性を検証するため、1300×1300×100 voxelの放射光CT画像を用いて、有限要素弾塑性解析を実施した。使用した計算資源は東京大学FX10で、280ノード,4,480コアを用いた。境界条件は2サイクルのみの繰り返し単純引張であり、増分ステップは17とした。これにより最大で約1.7億要素の弾塑性解析が実施可能であることを確認した。この規模であれば、約2万個のシリコン粒子と約8千個の金属間化合物粒子が含まれている。ただし、1千万要素以下の中規模モデルの検討では、九州大学FX10も使用した。 解析結果の可視化についても並列処理を検討した。並列可視化ソフトAVS/Express PCEを使用し、上記1.7億要素モデルの応力やひずみの可視化が可能であることを確認した。使用した計算資源は大阪大学VCCで、1ノード、20コアで処理した。FrontISTRの出力ファイルからAVS/Express用の入力ファイルを作成するプログラムも開発した。 以上の通り、大規模モデルに対して、解析モデルの作成から解析結果の可視化まで実施できる環境を構築した。また、次年度はスーパーコンピュータ「京」の利用申請が採択されたので、大規模モデルの多サイクル疲労解析が検証可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度から連携研究者として寺西正輝助教(福井大学)を追加し、研究実施を強力に推進する。スーパーコンピュータ「京」を用いて、大規模有限要素モデルに対する10サイクル程度の疲労解析を実施する。ハードウェア自体は平成28年度と同じFX10なので、計算環境は容易に移植でき、問題ない。 大規模解析と併せて、解析精度を改善するための新しい要素をFrontISTRに実装し、その妥当性を検証する。具体的には、積分点毎に材料特性を変化させ、数値的に不均質な要素とする。材料特性はCT画像の輝度値に基づき、内挿した輝度値から材料(アルミニウム合金母相、シリコン相、金属間化合物相、空隙)を特定して、材料特性を与える。これにより、要素内に界面を取り込み、階段形状が疑似的に解消されることになるので、数値的な不安定性が改善すると予想される。簡単な欠陥モデルの解析で、要素の解析精度を検証したのちに、大規模解析に適用する。 前年度にモデル化した介在物粒子よりも大きい鋳巣や試験片表面などの構造因子の影響を考慮するため、更に大規模なモデルを解析する。最終的には8億要素規模の疲労解析に挑戦する。その結果を基に、繰り返し負荷に対する介在物粒子群まわりの応力とひずみの変化を明らかにし、疲労き裂発生に対する破壊基準を検討する。また研究成果を随時、学会にて発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
各費目の端数が残ったため、繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
消耗品費として使用する。
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